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第23話

 片付けに没頭して時間を忘れていたが、気付けば午後3時を回っていた。片付けが終わって、出来上がった荷物は段ボールに3箱。置いていく物の方が圧倒的に多い。  使うもの以外、入れていないと言うのもあるけど、送り先の今の家は1K築40年のボロアパートで現実問題として物が置けないと言う事情もある。それにしても……捨てる物の量の多さに溜め息が出た。  でも、ここまでくれば、集荷に来る宅配業者を待って、ゴミ出しをすれば終わりだ。集荷は5時。それまでに不要な物をゴミ置き場に運んで、カレーの材料を買いに行けば良い。しかし、昨日受けた初めての投薬治療の副作用か身体が怠く重たかった。物の分別が終わって集中が切れると、そんな身体の不調が際立って感じられる。ゴミも沢山は運べそうになかった。でも、のんびりしては居られない。そう思って、取り敢えず一つだけ軽めのものを下げてゴミ置き場に行き、そのまま買い物に出掛けた。  通りに出ると駅方向に商店街を歩き始めた。最初に、家から一番近いスーパーを通り越して肉屋に向かう。スーパーで買えば一度で済むが、あの肉屋の鶏肉が美味いんだ。どうせ作るなら、浩介に美味しいものを食べて貰いたい。でも身体が怠い所為で歩みが鈍く、いつもよりも何だか遠い気がした。  でもゆっくり歩いたお陰で発見もあった。普段早足で通り過ぎるから気が付かなかったけれど、小さなお稲荷さんがあったんだ。誰かがきちんと管理しているらしく、榊やお供えもされていた。小さな赤い鳥居の側から小さな狐がこちらを向いて座っているのが可愛くて、思わず手を合わせた。  その後も何時もよりゆっくりと肉屋までの道を歩いた。急ぎたいのに急げないのがもどかしく、イライラが募る。歩く道も真夏の日差しと照り返しで、灼けるようだ。でも、やっと肉屋に辿り着いて中に入ると、程よく冷房が効いていて気持が良くて、襟首をパタパタさせて服の中に涼しい風を送ると、身も心の生き返るようだった。  店主のオヤジさんに鶏モモ肉を2枚買い注文すると、オヤジさんが話し始めた。 「珍しいね、平日のこんな時間に。外。暑かったでしょ。で、今日は何作るの?」 普段からよく買いに来るから、気心が知れている。 「今日はカレーだよ。チキンカレー。ここの肉は美味いからね。」 と言うと、オヤジさんは「そうかい」と言って、照れくさそうに視線を逸して鶏肉を計りに乗せた。それから、袋に入れて値段のシールを貼って、はいよっ、と言って差し出した。受け取るのと引き換えに代金を支払う。すると、お釣りと一緒に紙袋を手渡された。 「いまメンチカツが揚げたてなんだよ。好きだろう。爆ぜちゃったヤツで悪いんだけど、オマケだから。」 と言う。そう、そうなんだ。ここに住み始めた頃からずっと、ここのメンチカツが大好きなんだ。もう、何度買ったか知れない程に。  不意に掛けられた優しさに、涙が溢れそうになるのを誤魔化して、オヤジさんにありがとうを言って店を出る。が、背中から、またおいで、という声が聞こえてきて、堪えきれず泣きそうになって、急いで店を後にした。オヤジさんに合うのもこれが最後かもしれないそう思うと、堪えきれず涙が溢れた。。

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