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第28話
そわそわとして落ち着かない2日を過ごし、やっとナオキに会いに行く木曜日が来た。そんな気持ちが態度にも出ていた様で、今日は朝から、何時もと様子が違ったらしい。松井に、何だか嬉しそうですね、と話しかけられた。
「いや、嬉しいわけじゃなくて。今日美容院のカットモデルに行ってくるんだよ。美容院って初めてだからさ、何か、ちょっと緊張しちゃって。」
と答える。本当は、ナオキから渉の消息が聞けるのではという下心があるが、勿論それは言わない。すると、松井は遠慮の欠片もなく大笑いして、
「病院じゃなくてですか?」
と誂うのだ。人を年寄り扱いするなと睨みつけると、大して悪びれた様子もなく、すみませんと笑う。それから、
「床屋と大して変わりませんよ。安心してください。」
とまた笑った。
「カットモデルってことは………美容師さんに声を掛けられたんですか?えっ、部長が?」
何だか馬鹿にされた気がするのは気の所為ではないだろう。まだ話したそうな松井に、そろそろ仕事に戻れと促して、私もパソコンに向かった。
そうして初めてのお使いに行く子供のような心境で、そわそわと残りの時間を過ごし、午後7時を過ぎた頃に帰り支度を始めた。閉店後の午後8時過ぎの約束だから、まだ時間には早いが、松井がニヤニヤしてこちらを伺っているのが、どうにも落ち着かなかったのだ。
皆に聞こえるように「お先に。」と言って部屋を出ると、
「橋本部長デートかな、何か一日中そわそわしてたよね。」
と言う女子社員の声が背中に聞こえてきた。それに対して、
「そういうのじゃ無いっぽいよ。部長の名誉のために言わないけどさ。」
という、なにか言いたげに、含みをもたせた松井の言葉が続く。きっと松井は、彼女からの追求にあっさり喋ってしまうだろう。明日は、私の頭に皆の目が行くだろうと想像しながら階段を降りた。
全く若い者は……なんて、私達だって若い頃は言われたけれど、それにもまして、今の若者は遠慮がない。でも、皆に気付かれるほど態度に出ていたのかと、そこは反省したのだった。しかし、反省したところで、そわそわは止まらず、緊張したままナオキの店に行く事になったのは言うまでもない。
結局、かなり早めに駅に着いてしまったので、コーヒーショップで時間を潰して、8時過ぎに店の前に立った。中を覗けば、閉店後という事で、他に客は居ないようで緊張が増す。中で締めの作業をしていた店長らしき人物が、挙動不審な私に気が付いて扉を開けてくれる。どうぞ、と促されて中に入ると、店の奥の方から、笑顔のナオキも出てきた。
「浩介さん、いらっしゃい。ありがとうございます。」
この間一度あって、カットモデルの勧誘で話しただけなのに、名前で呼ぶなんて、随分親しげ……を通り越して馴れ馴れしいとは思ったが、渉の知り合いだから許そう。
「どんな感じにしますか?」
と聞かれて、
「今の感じをそのまま短くしてもらって……」
と答えながら、今まで髪型のことなど考えたことがなかったと気付いた。
「ええ?冒険はしないタイプですか?」
と驚くナオキに
「そうだね、あんまり変えるのは好きじゃないから。」
としどろもどろに返事をする
「へぇ、そうなんだ。渉くんっておしゃれだし髪型とかカラーとか結構気を使ってるから、彼氏さんもそういう人かと思ったんだけどな。」
少し残念そうにナオキが言った。
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