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楓3
その後の育成部での生活は大変快適で食事も普通に出るし、庭や棟内散策くらいなら多めに見られた。
午前もしくは午後・日によっては夜のうち1日に2度のお勤めさえクリアすれば悠々自適な生活で日がなのんびり過ごせた。
時折ある品評会と言う名の花の引き取り先が決まるかもしれない行事や、花を探している資産家が来れば積極的に自分を売り出した
「かえで〜お前、本当賢いな。冴えるっつーかみんながみんなそうだと俺らも助かるんだが…お前、いいところに身請けされるぜ?」
スキンヘッドは上機嫌に楓の頭を撫でた
今まで育てた中で1、2を争うかもしれない扱いやすさだ。
推薦のしがいもある。
ちょうどいい資産家が今日くるから今日は決めたいところだ
「楓…今日のお客様はアタリだ。多少年はいっているがお前の望む安寧な暮らしが手に入るはずだ」
スキンヘッドの声は熱い
楓は頷いた。
スキンヘッドのスマホが鳴る。どうやらお客様の到着らしい
楓は息を飲む。
悠々自適な生活も捨てがたいが今より自由になれるならその方がいい
今か今かと入り口を見つめる
コンコン
ノックがし慌てて土下座の姿勢をとる。
しばらくし扉が開き中に入ってくる人の気配
「権藤(ごんどう)様こちらがかえでです。たいへん扱いやすいタイプで従順かつ淫乱なのでお気に召すかと…」
「はいはい…分かった。では、かえでくん。顔を見せてくれるか?」
声に導かれ顔をあげると70歳はいっているだろうか?控えめにいっておじいちゃんが見つめていた
「ん?驚かせたか?すまないな。買いにきたのがこんな老いぼれで…」
いいえと首を横に振るが驚きを隠せない
だいたいがいつも40〜50代、若ければ30代もいたが60以上ははじめてな気がする
ぶっちゃけ勃つのか?
下世話だが心配してしまう。
「楓は医大を目指していたようですがご覧の通りでいまは休学させています」
「そうかそうか。あい、分かった。なかなかいい顔をした子だ。これを買おう」
権藤は楓の引き取りを決めた。
「望むなら復学もすれば良い。契約書をもらおう」
休学?退学したはずじゃ…どうなってる?
意味のわからないまま、スキンヘッドにより立ちあがらされしばらく歩かされた
とある部屋に通され座らされると書類に拇印を押すよう命じられ、拇印を押した
権藤に全権を握らせるとかいう内容が書かれている
別れの際、花屋を出る際にスキンヘッドより聞かされた。もしかして…ということがあるから休学にしておいたと告げられ思わず涙が溢れた
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「て。いうのが売れた時の話」
「は?てことは何、あんた医者になったとかそういう流れ?」
「あ〜そうなるね」
「え?じゃ、なんで助手?見習い?」
「いや、臨床試験終わってちょうど後期研修も終わってから来たから普通に医者。権藤のために必死で寝る間も惜しんで勉強したからストレート合格だよ。記憶ないくらい頑張った」
情報の整理がおっつかなくて混乱する
「みんな知らないとか?」
「いや、知ってる。俺が気乗りしないんだよね。燃え尽きっての?医者になったら権藤の世話する気だったのにとっととおっ死にやがって。俺にいったい何千万かけたんだか分かんないけど、死後は頼むなんて花屋に言うもんだからこんなとこに逆戻り」
「借金?」
「いや、そうじゃなく…権藤の最後の悪あがき
?ここに就職させろってさ。普通に病院で働かせんのがイヤだったんだろうな」
「意味不明…」
「まあ、また話してやるよ。権藤とこでの話とかいろいろ。明日もあるし今日は寝な」
ポンポンとツバキの頭を撫で、楓は消えた
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