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楓〝医師〝

治療部を後にした楓は医局室内にある助手の控え室に寄った。 そこで仁科と出くわす 「楓…お前、本当に医師業務はしないつもりか?」 仁科は楓に問う。何度も問うがなかなかいい返事はない 「う…。しません。やる目的がなくなったんでもういいっす」 「もったいない…10年頑張ったんでは? それにだ、ぶっちゃけ楓が医師をしてたら、菊はまだ生きていたかもしれない…それに3人ではどうにもならない時もある」 「そう言われると悩むっすよ…」 たしかにそうだ。あれはかなりきた… これでも医者だ。死んだと聞くと胸が痛い。 「とにかく…一度、しっかり考えろ。一年助手として働く君を見た限りでは充分やれる。指導は厳しくなるかもしれんが、しっかり育てるつもりだぞ?」 「考えます」 ・ ・ ツバキが治療部に来て1週間も経ちだいぶ慣れたころ凄まじい叫び声が聞こえた 「わーーーっ」 明らかに事件だ。 あまりの叫び声に治療部の花の3人はびっくりして顔を見合わせた。 「な…な?」 引きずるような音と共に楓、指導官らしき人物がかなり小柄な少年を引き連れてやってきた。中学に行ってるかどうかの年齢だ 後ろには何やらケガをしたと思われる仁科… 左手で右手を覆いかなりイラついた様子 その白衣は真っ赤で惨状を物語る 「助手さん、指導官さんベッドに乗せて固定っ」 ベッドに乗せるまではなんとかしたものの、ジタバタする少年を前にうまく楓と指導官が立ち回れず仁科は激怒し叫ぶ 「そんなんじゃ無理っっ!下半身俺が乗るからますば上っ」 「了解」 暴れる少年を押さえ手を固定し、次いで足を固定する。 しかしなおも暴れ続けている。 「まさか…こいつ、ボールペン仕込んでるとは迂闊でした。すんません、先生」 「手、大丈夫っすか」 「大丈夫じゃないよ」 パックリと裂けた手のひらと腕を披露する仁科 「う…っ」固まる一同 「困ったことに三河先生も尾張先生もいないし、電話も繋がらない。言ってる意味分かる?楓!!」 びくっと楓は揺れ動く 「前々から言ってたよね?3人体制のいま、夜勤は1人が多いんだ。しかも、俺はこんなだ。悪いが今日これより君には医師として動いてもらうよ!いいね。徳川先生っ」 「な…なっっ」 そこにいるすべての人物が驚いた 「え〜と…その元花の助手さんマジに医師免許が?」 「あるよ。意見を尊重してって話だったけど、こっちは手が足りないんだよ」 「で…でも」 楓は狼狽える。 「じゃあ、この子たちのうち、どの子か間引く?それくらい切羽詰まってる!選べっ」 「それは!嫌です…分かりました。俺、やります」 「よしっよく言った。そうと決まったらまずは俺をここで縫合」 「ここで縫うんすっか!?」 「当たり前だろっこんなパックリじゃ着替えすらできない」 「縫うのはいいんすけど、なんでここ!?」 聞こえる会話にツバキ、葵、藤は驚きが隠せない 葵と藤は楓の過去を知らなかったのだろう。驚きで目が見開いている 「いいから、徳川っ!縫合準備。必要物品分かる?」 痛みからなのか若干イラだちを見せながら仁科は椅子に座る 「え…えと、じゃあ麻酔用意します。縫合糸は6-0バイクリルでいいっすか?」 「いいよ」 「了解」 楓は震えながら手袋に消毒や麻酔と注射器、ガーゼ、包帯、縫合針を用意した 手袋をし消毒をすると酷い顔つきで眉を仁科は寄せた 「…うっっ」 「ごめんなさいっ痛みますか?すぐ麻酔します。指導官さんすんません。袋から注射器取って麻酔の蓋開けてください」 言われたとおり指導官は動く。楓は指導官の持つ注射器を受け取り麻酔を吸いあげた 手には針持器を持ち神経な顔で抜いすすめていく 「…っ」 「麻酔しててもひきつりますよね、痛み強いようなら麻酔追加するんで言ってください」 おぼつかない手つきだが、スムーズだ 賢さと利口さのある花だと聞いていたけど、噂に違わない 相当な努力家なのだろう… 「あの…仁科先生なんであの子たちの前で?」 指導官は不思議で尋ねる 「これから医師と花の関係になるんだ。見せるのが1番早い」 なるほど…と指導官とともに楓改め徳川は頷く 「縫合終わったらアレにサイズ16で膀胱尿管カテーテル挿入して留置しちゃおっか?」 アレとケガしてない方の手で未だにガルガル言ってる少年を指差す 「え?16っ…14じゃなく?あのおチビちゃんに?かなり痛いんじゃ…鬼っすね」 「そのおチビにこんなんされたんだけど?」 心底うざそうな表情を仁科は見せる 指導官が口を割る 「え〜と…霞の処遇は落ち着くまで両手足拘束の膀胱カテ中で上に報告でok?」 「いいよ」 仁科は短く答える 「えとすんません。じゃあ下がります」 指導官は消えた。 ・ ・ 3年後の治療部… 「カスミ!?名前一緒」 「そうだよ。花系の名前にも限りがあるからかぶる時もある」 「それで?いまの感じだと仁科先生と結びつくストーリーがわかないけど…。本当にそんな話が?」 カスミは首を傾げる 「気になるならまた晴一さんにキズ見せてもらうなり、徳川先生に聞けば?」 「う…」 「苦手?」 「うん」 「ふ〜ん…まぁ、オレもあんまり楓さん得意じゃなかったかも…」 春はその後を語り始めた

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