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のばら
アイリスへの鉄剤の注射を終え、のばらは満足感に満ちたりた気分で控え室で寛いだ。
こんな日が来るなんてあの頃のボクはおもわなかった。
あれはそう…2年ほど前のある夏の日、ボクは花屋へ返品された。
まだその頃は仁科は花屋に就職しておらず、三河はまだ来たばかりで慣れない感じだった。
尾張はというと来て数年という感じ。他に年配の医者がいたがボクが来て半年くらいで辞めたから印象にない。
仁科はそれと入れ替わりできた医者だったが、あまり好きではなかった。
間違いなくアル中だと思う。まあだからこんなとこに来たんだろうけど…
ちなみに先輩のスミレさんとは花仲間としてよく話したが優しいが怒ると怖くてミステリアスな雰囲気の不思議な人だった。
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2年前に話はさかのぼる……
返品…
この世界じゃよくある話。使えなくなったり、彩りが悪くなれば他の花のがよくなる。
だけど…
まさか、このボクが返品されるなんて!!
ありえない。
誰よりも、どの花よりも美しく咲いていたはずなのに
二度と金で苦労したくなくてかなりの資産家に媚びを売って計算通りに買われた。
なのに、後から買った花たちへの悪影響だからと排除された。
くそ…くそっ
のばらは車内で地団駄を踏みながら花屋へと続く窓の景色を眺めた
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「返品?のばらが?」
「ええなんでも2年前に売ったもみじ、去年売ったさくらをいじめて悪影響だとかで、、変わりにアイリスを買われました」
「あ〜なるほど…」
上層部は指導官からの報告に頷いた
「で?いま戻っている最中か?」
「はい」
「あの気性をなんとかしないとな…治療部で再商品化を図れ」
「分かりました」
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指示通り指導官らはのばらを治療部へ連行しようとのばらの右腕を掴み歩いた。
しかし、育成部を通り過ぎて棟を移ろうとしたところでのばらは暴れた
「ちょっ!そっちはたしか治療部とか言うとこだよね?なんでそっちに行かないといけないわけ??!」
「上層部の命令だ。従え」
「断る!」
のばらは右腕を振り上げ、手を外そうとした
がちょうどその時に三河と尾張が通りかかりのばらの動きを制止した。
「おっと…」
2人はのばらの腕をサイドから抱えるように持ち、逃げられないように力をこめた。
その力から逃れようとのばらは体に力を入れ、抵抗を試みている。
「のばら?僕らは君を迎えにきたんだけど…尾張先生彼、鎮静必要かな?」
「だな。同感だ」
「鎮静って!!ありえないんだけどっ」
のばらは声をあげ、聞いた言葉に驚き脱力する
「あれ?諦めたね?」
「んじゃ、いらねーな。鎮静」
「そんなもの飲まないし、打つ気もないっ」
スタスタとのばらは治療部方面へと歩き出すが、ピタッと止まり
「ボク、場所わかんない!道案内は?」
「あ〜そうだよね?案内するよ。治療部にきた記録無いから知らなくて当然だよね。とゆーか鎮静が何か知ってる感じ?育成部ではめったに使わないから経験ないよね?」
「元看護師なんで」
のばらはブスっとした表情と態度で三河に答え、そっぽを向いた
「訳ありか?なんで花屋に仕入れられた?」
尾張は尋ねる。
その言葉に怒りのばらは声を荒げた
「話してどうなるって訳?免許とって5年働いて、さあこれからって時に親がクスリにはまりやがって、借金!借金っ。で、あげくこんなとこ来て半年育成されたかと思いきや汚いおっさんに脚広げてあんなもの突っ込まれて!!3年頑張ったのにこの様。もう30歳になるのに再商品化?意味わかんないっっ」
かなり早口にまくしたて肩で息をするのばら
「でも…逃れられない3500万用意できれば別だが。中古ということでだいぶ値が下がったが無理だろ?」
尾張は静かに語る
「そんな額…無理だし」
「じゃあ、あきらめな」
2人は声を揃えて言い、治療部へとのばらを案内した。
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