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のばら5(事件)
プジーによる責めのその後、来る日も来る日も尾張はのばらにハードな治療を毎日のように施した。
しかしそれも他の花が来るまでの最初のうちだけで、ベッドもいつの間にか2つ3つと埋まり、だいぶ緩やかな治療になっていきのばらは気ままに過ごした。
この分だと育成に行く日も近いかも…と感じはじめた頃、年配の医者が辞めた
それから数日後の今日、新しい医者が来た
こんなとこに就職するやつなんてロクなやつじゃないと思ったが予感的中
第一印象は〝酒臭い〝
名を仁科というらしい…
「はじめまして。のばらくん」
「…」
返事をしたくない。医療職のくせして酒の香りを漂わせて初出勤とかありえない
「えーと、仁科先生。のばらは新参者とかにはあまり心を開かないタイプでな」
慌てて尾張が口を挟む
「とりあえず、頼むな。よし、仁科先生次の子だ」
仁科はのばらの前から消えた。
そんな最悪な仁科との出会いから2週間後、事件は起きた。
仁科のはじめての夜勤の日の夜明け近く
花の1人、つゆが痙攣して泡を吹いた
慌てふためく名も無き助手。
「なっ!なっ…」
「おいっお前!わたわたしてないで手枷外せっ。ボクのもそいつのも!医者呼べよっ。で、気道確保しろ」
のばらは叫んだ。てんかん?心臓?梗塞か?分からないが時を争う事態だ。
「はぁ?言われなくてもやるし。つーかお前に構ってる間ないって」
ぶつぶつ言いながら助手はつゆの手枷を外し、口を拭いたりともたもたと動いた
「口拭くとかどうでもいいからボクの枷外せっっ。つゆが死んだらお前が責任取れる?」
「ちっ」
舌を打ち従う助手。すぐさまのばらは時計を見ベッドに飛び乗り脈をとると脈が感じられず、心臓マッサージをはじめた
「5時32分!CPR開始。助手!医者に電話鳴らし続けろ。たぶん心室細動。尾張にも三河にもっ。電話しながらAEDとハサミ探せ」
「う…分かった…なんかあったらこれどうすんだよ…マジやばいって」
のばらの迫力におされ指示に従いながら愚痴愚痴言う助手がAEDとハサミを手に持ち戻ってきた
「ほらこれ」
「つけたことは?」
「ね…ねーよ?研修?は一応した」
「じゃあこっちを。もしもし亀よ亀さんよのテンポに合わせて。5cmくらいに下に押す。やり続けろ。後はAEDの言う通りに」
ハサミで服を切り裂きAEDを開けパッドを取り付けるのばら
〝心電図を調べています。患者に触れないでください〝
「助手っつゆから離れろ」
「分かってる」
〝電気ショックが必要です。患者に触れないで電気ショックボタンを押してください〝
のばらはボタンを押した。同時に跳ね上がる体
〝電気ショックが行われました。患者に触れても大丈夫です。心肺蘇生を行なってください〝
「そっち任せる。さっきと一緒。マッサージ続けろ」
のばらは治療部の隅にある救急カートと点滴スタンドを走って寄せて中を漁る
「あった」
中から点滴のボトルを出し、チューブと繋ぎ液体で満たしスタンドにさげてテープをいくつか切り、つゆの腕の外側を触り血管を確かめアルコール綿でつゆの腕を拭き血管を針で貫いた
が…ショック状態に陥っているためにうまく血が引けず一度針を抜いた。
「ここからは無理か…ごめん。つゆ、痛いよ」
ピクリともしないつゆの手の甲を触り同じ要領で貫く。
じわじわと針の中から血が出ててきて溢れる前にチューブと繋ぎゆっくりと点滴を落とす
血管が破れないように慎重に
つゆの脈をとると脈が回復していた
表情も先程よりいい。のばらはほっと胸を撫でおらしつぶやく
「5時50分心肺再開…助手さん心マ、もういいよ。よく頑張った。また何かあるといけないからとりあえずモニター用意いい?」
「う、うん」
助手は文句も言わずモニターを用意し、血圧計を点滴の腕と反対の腕に巻き、AEDのパッドとモニターの電極を付け変えた
血圧が低い…心拍も弱いなんとか回復させれたけど、油断ができない状態だ
だんだんと早く落とし、全開にして血圧の上昇を試みる
全開にしてしばらくしてやや容体が落ち着いてきた
空もすっかり明るくなり夜勤も明けるころ、ようやく酒臭い仁科が到着した。
「ばかやろーーっ」
のばらは仁科の腹にパンチした
感情が制御できずにポタポタと涙を流して崩れ落ち、仁科を叩きまくるのばら
そんなのばらを見て助手は止めようとしなかった。本来なら攻撃してくる花から医者を守らねばならい立場だが、そんな気持ちにはならず
それどころか目の前のバカにしていたはずの花の鮮やかな救出劇に心を打たれ、酒臭くやる気のない医者の間の抜けた登場に怒りの感情しかなかった。
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