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第15話
「申し訳ございません。ここから先は、ご一緒する事ができません」
荘厳な扉がそびえ立つ。
この扉を開ければ軍事法廷。
俺の言い分は、恐らく何も聞いてくれない。
周りは全て敵の状況で、俺を陥れた真犯人を探し出す事ができるのだろうか。
否。
やらなければ。
無実を証明するために。
俺を信じてくれるクレイのために。
何でもいい。
犯人に繋がる糸口だけでも。
「不安な顔をしないで下さい」
鼓動がトクンと鳴って、ハッとして見上げた。
頬に触れた黒い革の手袋。
青い湖水の瞳の水面が揺れた。
「あなた一人ではありません。心は常におそばに」
青い瞳に吸い込まれて、包まれているようだ。
「良かった。少し落ち着いたようですね。別室のモニターで俺も見ています。あなたを陥れた黒幕は、恐らく七人の大臣の内の誰かでしょう。一人か、それとも複数人か……」
彼らは徳を讃えられ『ジャンダルム七賢者』と呼ばれています。
「しかし、その実は権力の亡者に過ぎない。誰を蹴落として、のし上がるか……あなたは権力闘争のスケープゴートになってしまった」
此の国の政治は腐敗している。
「七賢者も陪審員として同席します。何でも構いません。あなたの証言で、真犯人を突き止めるための言動を引き出して下さい」
異世界転生した俺に、過去の記憶はない。だが、ここまで来たらやるしかない。
静かに、決意を込めて頷いた。
「力強い瞳の色は、あの日のままですね……」
「あの日?」
「俺を拾ってくださっ下さった、あの日……」
「クレイは戦災孤児だったね」
「えぇ。家族を奪われ、友人を奪われ、故国を奪われて、世界の全てを敵だと思っていました。あなたが現れる前はね」
優しい手がサラサラと髪を梳いた。
心地良さにそっと瞼を閉じる……と。
「これは?」
キラリと光る。
首に掛けられた小さな星のネックレス。
「どうぞ」
「ダメだよ」
キラキラ揺れて輝く繊細な細工だ。角度によって藍にも紫にも見える、宵闇色の美しい宝石も埋められている。
「こんな高級なもの、受け取れない」
「いえ。それは元々あなたの物ですよ」
「えっ?」
「記憶にないのも仕方ありませんが、それはあなたの持ち物で、俺に下さった物でもあるのです」
チャリン
クレイの胸元。
指先にかざした星が揺れた。
銀色の同じ細工の星には、クレイの瞳の色と同じ宝石が埋められている。
きっと真昼の湖はこんな色をしているのだろう。深い青は、どこまでも透明な神聖なアクア。
「あなたが俺に与えて下さったペンダントです。あなたも色違いの同じ物を身に付けて下さった。以来、ずっと肌身離さず付けています。あなたも、俺も」
「そうなんだ」
「はい」
穏やかな眼差しは穏やかで、どこか儚げに映った。
そうだよな……
大事なペンダント
大事な思い出
大事な記憶が俺にはない。
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