20 / 50

第20話

「空の騎士 騎士団長  ライト・クロヴィウス ヴァイスリッター Ω」  静寂の法廷に、読み上げられた俺の名前と階級が重々しく響いた。  『罪状   皇帝弑逆未遂 及び 国家反逆罪』  俺になすりつけられた無実の罪の名前を、三人の内、左側の裁判官が読み上げる。  裁判長が右手を厳かに挙げた。 「これより審議に入る」  審議?どういう事?  まだ罪状しか読み上げられていない。 「退廷」  ギギィと椅子が軋み、三人の裁判官が腰を上げた。 「待って下さい!」  証言は何もない。  それどころか、俺はまだ一言も発言してないじゃないか。 「待って!」  たった今、開廷の号令が掛かったばかりで、こんなのッ 「待って、裁判長!」  こんなの裁判じゃない。  幾つもの空虚な足音が、法廷から消えていく。  扉は無情に閉じる。背を向けた彼らは振り返る事なく、法廷を後にした。  取り残された重い静寂。  待って……  もう声にもならない。  誰に待って貰えばいいのか。俺は何をすればいいのか。  この広く重苦しい法廷で。  ガチャン  突如として背後の扉が開いた。 「クレイ!」  ハッとして振り返る。  だが。 「ヴァイスリッター」  声は聞き慣れた彼じゃない。 「あなたの功績が認められました」  初めて見る灰青色の制服。警棒を腰に携えている。冷たい目…… 「恩赦です」  底の知れない瞳の静けさに、ゾッと背筋に冷たいものが走った。  刑務官だろうか。  左手を挙げたのを合図にザザッと兵士が雪崩込んだ。 「刑罰を免除し、名誉を与えます」  ザッ  取り囲む兵士の輪が狭くなった。 「言ったでしょう。名誉です。さぁ、お前達、ヴァイスリッターに目隠しを」  抑揚なく、ひしひしと兵士達が迫ってくる。 「やめろ!」  得体の知れぬ無音の嫌悪が這い上った。  伸びてきた腕を振り払う素振りを見せると、兵士達が怯んだ。  兵士の中には、俺よりずっとガタイのいい者もいる。俺を取り押さえる事は容易いだろう。  しかし、そうしないのはヴァイスリッターの権威が俺にあるからだ。 「空の騎士団長ヴァイスリッターの名のもとに、ライト・クロヴィウスが命じる…… 跪け!」 「ははっ」  ザッ  軍靴を鳴らし、俺を取り囲む九人の兵士が一斉に膝をついた。  右手を左胸に、左手を後ろ手にし、克己復礼の臣従を示す。  うそ……  俺ってもしかして、すごい? 「貴様らッ」  刑務官が初めて苛ついた声を上げた。 「()が高い。(こうべ)を垂れよ!」 「……ははっ」  押し殺した声で、刑務官さえも跪く。  俺、本当に凄い。これなら、乗り切れるかも。  ザザッ……  微かに背後で物音がした。  しまった。見逃した。  今、物音を立てたのは、壇上に並ぶ大臣達。ジャンダルム七賢者の誰かだ。  この裁判を仕組んだ真犯人に違いない。

ともだちにシェアしよう!