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ch.19 (R-18)
もう10分も、もしかしたら20分か。組み敷かれたベッドの真ん中で抱き合い、口付けを交わしていた。疲れた唇が時折離れて、まぶたを開ければ、想い人が僕を見下ろしていた。
先生の家に来てから、彼の顔しかろくに見ていない。そして、僕ら以外に音はなく、乱れていく吐息と、舌が絡む濡れた音だけが聞こえている。
「せん、せ…」
薄い唇の端が、微かに上がる。情欲に染まった瞳が、間接照明の淡い灯りに揺れている。
「…せんせえ、なんか、いってーーー」
「僕は先生じゃない…」
僕の頬を撫で下りた強い指が、下唇を左から右へとなぞる。その指先を唇で食んで、彼を呼ぶ。
「せんせえーーー」
「先生じゃないーーー」
「…せんせっーーー」
「ウィル、君は悪い子だな…」
目を細めた先生の顔は、まるで悪魔だった。乱暴な指がネクタイを解き、抜き取ったタイを咥えて彼が笑う。あっという間に僕の両手首をタイで縛った彼は、僕の頭の上で括った手を押さえつけた。
「!?」
「お仕置きだよ」
「ぃやだ、せんーーー」
呼んだ唇を塞がれて、苦しい吐息を奪われる。ぬらぬらと吸い合う舌に溺れているうちに、気がつけばシャツの前がはだけられていた。身動きが取れない僕は、彼のお仕置きを待つだけになる。
「やだっ、せんせっ…」
「あぁ、ウィル…」
囁く声の熱さに、ドキリと跳ねた胸の真ん中に温かな唇が降る。腹を撫で回した右手がゆっくりとあばらを辿り、胸に這い上がってくる。少し固い指先がそっと乳首の先を掠めて、僕は息を飲んだ。
「っ…」
「ウィル…」
人差し指と親指が、触れるか触れないかの軽さで僕を摘み、そっと、優しく僕を撚(よ)る。ムズムズとした疼きは強まる刺激に熱を帯びて、やがて腰の中にも熱いものが宿った。
「あぁ、ウィル…乳首がすぐに勃起して…いやらしい子だ」
「…せんせっ、へんないいかた、やめーーー」
「正直に言うんだ…乳首でオナニーをしてるの…?」
するすると擦(さす)られる快感を飲み込んで、必死で首を横に振った。
「嘘はだめだよ、もっとお仕置きしなきゃいけなくなるーーー」
「だめっ、せんせっ、ゆるして、ほんとにしてなーーー」
逆の乳首が、温かな粘膜に包まれて声が出せなくなる。ねっとりと僕に絡み、舌先で転がされて強く吸われると、思わず腰が浮いた。
「っ…んゥっ!」
「声を出して…」
きつく吸われてはねろねろと舐(ねぶ)られ、絞るように啜られてはべろりと舐め回される。生き物のような舌に翻弄され、じんじんとしこった乳首を柔く噛まれた時には、僕のペニスはすっかり勃ち上がっていた。
「…くっ、あっ、せんせ…はアっ、んんッ」
「女の子みたいな声を出すんだね、すごく、かわいい…」
徐々に強まる指先が、乳首を揉んで捻(ねじ)り、摘んで引っ張っては根本をぎしぎしとしごいている。ふいに乳首の先端をぐりぐりと擦られて、全身に甘い衝撃が走った。
「せんせ、ぁ、それぇ、んあ…アッ、ふ…」
僕の胸で、先生は薄く笑っている。意のままに弄ばれる僕は、ただ、浮かせた腰を突き上げて、彼に擦り付けることしかできない。
「せんせ、ア、せんせえっ…」
「…何?」
「おっぱい、きもちっ、いっ…からだ、へんっーーー」
「ちゃんと、言って…」
抓(つね)られる痛みも、噛まれる痛みも、繰り返されれば快感に化けて、体を炙り、腰の底に伝っていく。そして、じわじわ膨らむ熱いものがどくんと脈打つたびに、僕は、腰をくねらせてしまう。
「ア、あ、あそこ、あそこが、あついよ、せんせえ…」
「あそこじゃ、わからない…」
おもむろに体を起こし、僕を覗き込んだ顔は、まるで人が変わったように冷たい。
「せんせぇ…」
「うん」
「ぼくの、おまんこのなかっ、あつーーー」
「聞こえない…」
先生は意地悪く笑い、僕の唇を舌先で突いて遊んでいる。弄ばれても辱められても、もっとしてほしいと思うのは、頭上で括られた右手を彼が握っているからだと思う。
「おまんこ、おまんこあついよ、せんせえっ…」
「…あぁ、ウィル、いやらしい子だね」
本当に嬉しそうに笑う先生の、望みがわかる。僕を封じていた手が離れ、大きな両手が頬を包む。口を開けて、伸ばした舌で彼を迎え入れる。僅かにも粘膜を擦り合わせてしまえば、頭の芯が溶けてしまうような幸せを感じた。
「…ウィル、どうしてほしい…?」
唇を重ねたまま、囁く口元は笑っている。
「…せんせえ、おまんこ、けんさ、して…」
縛られた腕を彼の首にかけて、引き寄せる。
「しないよ、今日検査したばかりだ…」
離れた唇が、鼻から額、そしてまぶたへと口付けをくれる。
「おねがい、せんせっ…あつくて、おかしいから…」
「…お仕置きが足りないね」
冷たく僕を見据えながら、先生は僕のズボンを剥ぎ取った。
僕をブリーフだけにした先生が膝立ちになり、ゆっくりとセーターを脱ぎ、シャツを脱いで、スラックスを脱ぐのを見ていた。男らしく鍛え上げられているわけでもないのに、体毛が生え揃った胸や腹や腕を見ると、これが大人なんだと見せつけられているようで、自分が急に酷く幼く思える。
そして、黒のボクサーだけになった彼の半勃ちのそれに見下ろされると、既に下着を高く突き上げている自分が恥ずかしくなって、よじった腰を括られたままの両手で覆った。
「…恥ずかしい?」
先生は僕の膝の辺りで四つ這いになると、腿の側面を撫で回して、唇で触れた。それだけで背筋がゾクゾクとして、急に、これ以上触れられたらどうなってしまうんだろうと少しだけ不安になる。
「もっと恥ずかしいところを見せてるのに?」
掴まれた膝を強く開かれて、はずみで仰向けになった僕は、彼の目の前に下着のそこを晒した。
「あっ…!」
「…ああ」
「…やだ、も、て、ほどいてっ」
「だめだよ、これは検査じゃない、お仕置きだからね…」
先生が僕の腰から尻の下に枕を置いて、腰が持ち上がり、股間が天を仰ぐ姿勢になる。その向こうに唇を歪めて笑う彼が見えて、恥ずかしくて目を閉じた。相手が見えないだけ、まだ検査のほうがマシだと知る。
「せんせっーーー」
「苦しいかい?」
「はずか、しっ…」
「ああ、よく見えるよ、ウィル…」
荒い吐息が、腿の付け根を温めていた。
尻の辺りに指を感じて、息を飲む。
下着の尻のあたりが掴まれ、尻の窪みに合わせて絞られた布が強く下に引かれ、ペニスで持ち上げた布が引っ張られる。細い生地が脚の間に食い込む感触に、僕は思わず声を上げていた。
「あっ!?だ、め…っ」
「ああウィル、とてもやらしいね」
「せんせッ、やめて…」
ゆっくりと、強く、弱く。ずるずると下着に擦られて、そこがじんと熱くなる。
「…見なさい、君のカラダを」
目を開けると、下着が割れ目に食い込んで、両脇にはみ出した肉が盛り上がっていた。
「いっ、や!せんせ、はずか、しっ…」
「どうして、君の大陰唇は素晴らしいよ、こんなに肉厚で…」
左右の肉に埋められた指が、上下に押し揉むように擦った。それだけで、腰の疼きが強まってしまう。
「ん、は、アッ、せんせーーー」
「ふっくらして、柔らかくて…とても僕好みだ」
伸びた舌が、右の肉を舐め上げる。食い込む下着に触れないよう、ゆっくりと慎重に。そして、左の肉を舐め下ろされた僕はまた、カラダの中がどくんとして、脚が跳ね上がってしまう。
「ンゥっ、ぉっ、ふっ…!!」
「これだけで…?ウィル、溜まってるの?」
顔を上げた彼は、わざとらしく眉をひそめて僕を眺めた。
「正直に言いなさい…」
「…っ」
「ここで、オナニーしたって」
おもむろに、指がタマの裏に突き立てられ、そのまま下へ向かう。
「ッ!?」
下着越しに、指の腹がクリとあそこを静かに摩(さす)り始めて、その摩擦が生む気持ちよさに、つい腰が動いてしまう。
「したんだろ…?ウィル…」
ゆっくりと探るように、確かめるように動く指は、僕を無言で責めていた。
「しま、した…アっ、おまんこで、あっ、おなにー、しました…あっ…」
「いつ?」
膨らんだクリに指が引っかかるようになると、そこをなぞる力が少しずつ強くなった。
「ンっ、…じゅう、がつーーー」
「どれくらいしたの?」
時々指を埋めるように押し込まれ、短い爪にカリカリと引っ掻かれる甘い快感に、尻や腿が震えてしまう。
「まい…に、ちーーー」
「どうして言わなかった?」
強い声に、ぞわぞわとした快感が全身を這う。
「ア、ご、めんな、さいっ、せんせーーー」
「本当に、いけない子だね…」
「ごめんなさい、ごめんなさい、せんせっーーー」
「こうやってオナった?」
カリカリと爪で掻いては指の腹で捏ねて、揺らして、ふいに立てた爪でくりくりして、そしてまた優しく擦って、少しずつ強めていきながら、また捏ね回される。
オナニーが比べ物にならない快感に、この人は女を知っているのだと、少し怖くなる。
「ア、ああっ、すごいっ、せんせ、あ、すごっ、イっ、きもちいっーーー」
「あぁ、熱いよ…」
そこはますます昂って気持ちよくなり、カラダの中もじんじんしてたまらなくなると、それを知ったように僕を弄ぶ指が弱まったり離れたりして、緩急をつけながら快感を溜められていった僕の中は、切なく脈打ち続けて、ついに我慢ができなくなる。
「せんせ、せんせっ、あ、だめ、っい、いっちゃう…」
「ああっ」
「いっ…ぐっ………ッッ!」
ばちんと弾けた絶頂に、息が止まる。
あまりにも静かな部屋に、僕の嗚咽じみた吐息と、先生の荒ぶる吐息だけが響いている。
鈍い頭で先生を探すと、彼は静かに体を起こし、僕の下着を脱がした。ひやりとした空気が股間に触れて、僕は反射的に脚を閉じて跳ねたペニスを手で隠した。腹に倒れたそれの先に、先走りがたくさん滲んでいるのがわかった。
「ア…」
「ウィル、見て」
「あ…」
「君の下着、こんなに汚れて…」
薄ら笑いを浮かべた先生は、僕の下着をこちらに突き出した。ペニスの先が濡れ、クロッチには端まで楕円の滲みが広がっている。
「やめ、み…ない…で…」
彼は滲みをスンと大きく嗅いで、目を細めた。
「…いいニオイ」
「やっ…ばかっ…」
それだけで、顔が熱くなる。こんな人だったなんて。車の中で“始めて”しまってからずっと、彼はまるで知らない人のように見えていた。
「君だって女の子のあそこ、嗅ぐだろ」
つまらなそうに見下ろされて、何も言えなくなる。そうだった、僕だって男だし、その場になればただのスケベだ。だけど今はもう、こんなコトを望んでいる自分が、男なのか女なのかよくわからない。
「…これを舐めてもいいけど、僕は君を舐めたいよ、ウィル…」
下着を大きく突き上げた先生のペニスは、その形がわかるほど勃起していた。そして僕の下着を放り投げた彼は、僕の膝に手をかけて、また、目一杯脚を開いた。
「あッ!」
「ああ…」
恥ずかしくて、顔を背けた。見なくても、突き刺すような視線を注がれているのがわかって、逃げたくて背をよじった。
「ウィル、自分で広げて…」
「え…?」
「クリトリスの包皮を剥いて、小陰唇を左右に広げてヴァギナを見せなさい」
冷たい声に思わず先生を見ると、彼はまた、怖い目で僕を見据えていた。
「せんせっ…そんなかお、しないでーーー」
「早くしなさい」
低い声がそこをくすぐり、ため息が漏れる。どれだけ夢に見たことか、抗う理由なんてない。手を伸ばしてそこを探り、言われた通りにすると、彼が大きく息を吐(つ)くのが聞こえて目を閉じた。
「あぁ…ウィル…」
「…せんせ、はずかし…いーーー」
「色も、カタチも、とてもいやらしいよ…」
「ン…」
「…匂いもね…」
「だ、め…」
「誰かに愛されるのを待ちわびてる、そんなカタチをしてる…」
「…あ」
「こうしてる間にも、愛液がこぼれ出してる…」
「ッ!」
「…未熟なのに、こんなに男を惹きつけるなんて…」
「…っ」
「ウィル、僕は、君の体を素晴らしいと思うよ…」
先生が何か言うたびに、腰の底から震えが走り、また、体が熱くなり始めていた。恥ずかしくて、息苦しいほど胸がドキドキしているのに感じてしまう。検査の時とはまるで違う感覚に、頭がふやけていくようだった。
「あぁ、ウィル…っ」
高揚に震えた声が僕を呼び、強い手が内腿を掴んだ。
舌にクリを突かれた瞬間、視界に火花が散った。
まるで犬のように、先生は一心にクリを舐めている。なすがまま、快感に尻を震わせている僕は、舌が蠢くたびに腑抜けた声を漏らすことしかできない。
「ウィル、クリが膨らんで、硬く硬くなったよ…」
「アッ、アッ、アッ、だめ、アッ、そこッ、せんせえッ」
じゅうと吸われ、熱い唇の中で舐(ねぶ)られて、そこが蕩けるような快感に腰を振ってしまう。
「あ、うっ、せんせ、せんせ、きもちぃ…」
ねろりと舌が動き、肉のグミもまとめて吸われると、更にカラダがスパークして、腰の奥から甘い熱が溢れ出すようだった。
「ウィル、君の小陰唇がとても好きだよ…」
啄まれ、啜られた右の肉びらを強く引っ張られる。
「ん、ああッ!!」
「はみ出るくらいおっきくて、Hなカタチをしてて…」
左も同様に。彼は執拗にグミのびらびらを吸い、クリと一緒に舐め回して、強く練って、優しく噛んで、僕を狂わせていく。
「ああ、ああ、せんせっ、すごい、だめ、ああっ、おかしく、なッちゃ、うっ、あ、あーーー」
「まだだよウィル、始めたばっかだ…」
そこから口元が離れた切なさは、とても耐えられない。
「せんせ、いや、いっぱい、してっ…」
「…ウィル、いっぱい愛液が垂れてるよ…」
「せんせ、せんせっ、おまんこ、あついっ、きもちよくして…」
「こぼれたお汁がもったいないね…」
先生が深く屈み、尻の窪みに垂れた愛液をゆっくりと舐め上げて啜り取る。
「んっ、おっ、アっ、いいっ…」
プッシーの下で口を離した彼は、はぁと震える吐息を漏らした。
「…あぁ、少ししょっぱい君の味、おいしいよ…」
「あっ、せんせっ、もっと、して…」
「触ってもいないのに、白いお汁も出てきてる…」
「せんせ、じらさないで、せんせ…っ」
「もっと飲ませて…」
じゅうとプッシーに食いつかれて、たまらずのけぞった。強く啜られ、ねじ込まれた舌に舐め取られる快感に、全身に鳥肌が立ち、また、カラダの奥に熱いものが滾り始める。
「ウィル…っ」
先生が口を離すたびに、もどかしい欲求に脚が跳ねる。もっと、もっとと腰を揺らしながら、僕は、ふしだらに彼を呼ぶ。
「…本気汁はすごくしょっぱい、だけど君のなら、いくらでも舐めるよ…」
「せんせえ、おまんこ、あついよ、おねがい…」
「…ウィル、おまんこの中に何を入れてたの?」
「ゆっ…ゆび…っ」
「おもちゃは?」
「…いれて…ない、よーーー」
「どうして?」
「…こわ、かったっ…からーーー」
「そうーーー」
唐突に、何かがカラダを拡げた衝撃に息を飲んだ。見ると、先生の指がゆっくりと僕の穴に挿し込まれていく。
「ッ、あ、ああッ!?」
「…すごい…あったかい」
彼が、嬉しそうに笑っている。滑るそこに簡単に吸い込まれた中指がのんびり出入りを始めて、僕は、途端にうねりを上げ始めた衝動に悶えた。
「はッ、あっ、そこッ…」
「Gスポット、好き…?」
「すき、すき、あ、せんせ、もっと…」
手を翻して薬指も埋めた先生は、期待通り、僕のそこを指の腹で撫でて、掻き回しながら確かめて、指先を擦り付けるように穿(ほじ)ってくれる。出し入れが少しずつ早まって、指が引かれるたびにぴちぴちと音が響いて、ペニスからダラダラ先走りが吹きこぼれた。
「…ここは随分慣れてるみたいだね…」
「せんせ、せんせっ、きもち、いッ…」
突然、ぷしっと音がして、彼に追い立てられる膣がじゅんと溶けたようだった。霞んだ頭で見ると、僕のそこから、噴水みたいに何かが吹き出していた。
「…え!?」
「ウィル…君、潮を吹けるの?」
「ちがっ…せんせ、ちがうの…せんせっ…」
びゅるびゅると飛び散ったそれが、うっとりと笑う顔や髪を濡らしていた。急に怖くなって、体をよじって逃げようとしても、彼にますます強く穿(ほじ)られて力が抜けてしまう。
「…ウィル、手を離しちゃだめだ、ちゃんとおまんこを広げてて…」
「せんせっ、アっ、ごめんなさいっ、せんせ、ちがうの、ちがうからーーー」
「うん」
広げたそこに待ちわびた口が着弾して、全身が歓びに打ち震えた。
「せんせっ、それ、イイっ…!」
「おいで」と囁く唇にクリを吸われ、千切れそうなびらびらとまとめて転がされて、とろとろに蕩けていく。僕の中をぐずぐずと抉っていた指が早まり、捻(ねじ)りながらそこを突いて、突いて、腰の底で膨らみきったマグマを抑えきれなくなる。
「せんせッ、も、もおっ…」
なんの前触れもなく掴まれたペニスを、溢れる先走りを絡めて根本からしごき上げられる。
「あ、あ、あッーーーーーー」
未だかつて経験したことのない絶頂が腰から脳天を駆け抜けて、僕は、何もわからなくなる。
* * *
気がつくと、ベッドの中だった。照明のついていない部屋は暗く、いつものようにオナった後に寝落ちてしまったんだと思いかけた時、すぐ耳元で吐息が聞こえて瞬時に現実に引き戻された。首の下には誰かの腕、誰かの腕が僕の腹から腰を抱えていて、左脚に誰かの脚が絡みついている。
僕を抱いているのはーーー
左を向くと、目の前の顔に全てを思い出した。知らぬ間に、手首を封じていたタイはなくなっていた。
「せん、せ…?」
黙ってウンと目で頷いた彼は、静かに腕を上げた。寝具の衣擦れがして、彼の手が僕の頬に触れ、こめかみに伸びた指が髪を撫でた。
「…ぼく」
「うん」
「…ここは?」
「僕の寝室」
「そう、だった…」
見回すと、初めてここがどんな部屋かわかった。遮光カーテンのせいで限りなく暗いけど、陰影でわかる限り、ランプが乗った暗い色のサイドテーブルと同じくらい暗い色のチェスト、そしてドレッサーがあるだけで、どれもシンプルなデザインのさっぱりとした部屋だった。先生のクリニックを思い出せば、意外なほど殺風景に思える。
「…したの?」
「してない」
僕を抱き寄せた先生は、僕に巻き付けた手脚に力を込めた。
彼の背に腕を回し、触れ合う体で彼の体を感じた。あのまま何もしていないなら、初めて僕は、彼の肌と体温を肌で感じていた。
「…きもちい…」
「うん」
僕の鼻に鼻を押しつけて、先生がひっそり笑った。
「…しないの?」
「しないよ」
「…どうして?」
「君は、疲れてる」
「…ないよ…」
「今日、検査した…昼間の話」
「…へいき」
「今、どんな感じ?」
「…ぼーっとして、ふわふわして、きもちよくて、でも、すごくだるくて、ねむい…」
「ほら」と呆れた顔が、少し憎たらしい。こうなったのは、彼のせいなのに。
「…せっくす、しないと…」
「しなきゃいけないもんじゃない」
彼を強く引き寄せて、温かな肌とざらざらした体毛が擦れる心地よさを確かめた。彼はボクサーを履いたままで、今はもう、勃起していなかった。
「…したくないの?」
「その気はあったよ」
「…じゃあ、なんで?」
「君が、あんまり激しく“飛んだ”から、満足した」
僕の髪と背を静かに撫でながら、彼は優しく笑った。
「…へんなのーーー」
「泣いてた、きれいだった」
「………」
「寝ていいよ」
そう囁かれると、やっぱり睡魔に抗えなくて、急に重くなったまぶたを閉じた。
「…せんせ」
「うん」
「せんせは、えっちのとき、いつもあんな、いじわるなの…?」
「そうでもない」
僕を抱き直した先生は、こめかみにキスをくれた。
強くて優しい温もりに包まれて、今にも寝落ちてしまいそうだった。
「…じゃあ、どうして…ぼくには、いじわるなの…?」
「君が、先生って言うからだよ…」
「…だって、せんせいは、ていらーせんせいだし…」
「…」
「………なまえ…わかんなかったーーー」
「アレック」
囁いた先生は、僕の額に柔らかなキスをした。
「…あれっく」
僕のまぶたに口づけて、彼は小さく笑った。
「おやすみ、ウィル…」
唇に、彼の唇を感じた。
「あれっく…」
重ねた唇で呟いて、僕は、眠りに滑り落ちた。
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