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ch.32

ランチを終えた後、僕らは再び西に向かい、14時頃にはウェストフィールド・ロンドンに着いた。パンフレットを見ると、ショッピングモールだけじゃなく、百貨店エリアにスーパー、ボウリングや屋内ミニゴルフ場なんかのアミューズメントエリア、イベントホールまである。 思っていた以上のバカでかさに、僕はワクワクした。 「ここでほとんど済んじゃう」とウィンクする先生に、「でもさ、デート感薄くない?」と返すと、彼は「そんなことない、ほら」と僕に手を差し出した。 誰か、知っている人に見られるかもしれないと思うと、手を出せなかった。 「…できない、アレック、ごめんーーー」 「いいよ、じゃあ、行こ」 先生はさっぱりと笑うと、僕の背を押してゆっくり歩き出した。 ちょっと買い物と言っていた先生は、マストで買わなきゃいけない物があるわけじゃなさそうだった。僕らは、だだっ広いフロアを探検するみたいに隅々まで歩き回り、「こんなショップがあるんだ」とか、「ちょっとあれ見たい」とか言いながら、気になるショップを片っ端から覗いたり試したりしていった。 先生は主に服や靴や革製品や貴金属のお店を覗いて、仕事用の服や小物を見ながら、たまに「これどう思う?」と僕に聞いて、僕は「似合う」とか「かっこいい」とか、「それはあんま好きじゃない」とか「こっちのほうがいい」とか、「高い!」なんて言いながらついていった。彼は色々吟味する割には買わないで、10つもショップを覗いたのに、最終的に買ったのはシェーバーの替刃と、ワックスとソックスと、一目惚れしたらしい北欧デザインっぽいテーブルランプだった。 僕は主にファスト・ファッションと靴屋を覗いて、トレーナーと数枚組の下着と小物なんかを買って、ポケモンセンターで好きなポケモンの小さなフィギュアを買って、文具店でノートを買って、スマホのお店でスマホケースを新調して、靴屋でスニーカーを見て、スポーツ用品店でフットボールのシューズを見た。 特に何を買うのではなくても、男性用化粧品を「これがいいよ」、「アレック、こういうの使うんだ」なんて言いながら試してみたり、お茶の専門店で好きなお茶を言い合ったり、買う気もないのに眼鏡屋でフレームを試して「似合う」とか「似合わない」とか言い合ったり、香水のブティックを覗いて「これが好き」「これは好みじゃない」って片っ端から嗅いだり、ゴルフ用品店を覗く先生に「ゴルフやるんだね」って驚いたり、ホビーショップで僕が好きなアメコミ作品を教えたりするだけで楽しい。そして、こうしている間にも、先生のことを少しずつでも知っていけるのがとても嬉しかった。 楽しい時間はあっという間に過ぎて、17時頃、アイスクリームのショップで休憩した。ずっと荷物を抱えて歩き回ってたから結構疲れていて、お腹もペコペコだった僕らは、それぞれ、大きいカップに3つのフレーバーを選んだ。 「いい運動になった」なんて年寄りみたいなことを言っている先生は、クッキー&クリーム、パンプキン、アールグレイ&キャラメルをチョイスした。 とは言いながら、僕も運動不足は同じだった。「クラブ卒業しちゃってから全然運動してないや」とバスク&レアチーズケーキ、チョコミント、ストロベリーを選んだ僕に、彼は「知ってる」とニヤリとした。 「君、ふっくらした」 「…痩せなきゃ」 「女の子みたいなこと言うんだ」と苦笑した先生は、僕のアイスにざくざくスプーンを刺して食べ始めたから、「そりゃちょっとは気にする」と彼のアイスにスプーンを突っ込んで食べた。 「君の体の柔らかいところも硬いところも好きだよ、硬くなる柔らかいところもーーー」 「そういうね…」 エッチなことをごく真面目な顔で言う先生に驚いてしまうけど、それもやっぱり嬉しくて、早くふたりきりになりたかった。 その後、僕らはウェイトローズ(スーパー)でディナーの食べ物や飲み物をしこたま買った。先生は料理を滅多にしないそうで、朝食は簡単なシリアルやトーストとヨーグルトで、夕食はパブなんかでの外食かテイクアウトのデリで済ませてると教えてくれた。自分も一人暮らしをするなら、自然とそんなライフスタイルになるだろうと思えば驚きはなかった。 そしてふと、“いつか一人暮らしをするなら”と想像したら、その時は先生に会いやすい所がいいとか、近くどころか一緒に住めたりしたらすごくハッピーだと思ったら甘酸っぱい気持ちになって、この後、先生の家に行くことがますます嬉しくなった。

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