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第16話

キタノの髪を手に入れた。 そんなにむずかしくはなかった。 キタノがひとりでアトリエで寝てるときに、ハサミで少し切った。 ボサボサでもじゃもじゃなので誰もそれくらいは気にしないし気づかない。 本人は特に。 そのDNAを調べさせたのはカイに頼んだ。 これでアルファかどうかわかる。 兄に全てを管理されているので、調査に自分の名前は絶対に出させないため、カイを使った。 そこは慎重だった。 県外に出て皆の「公衆便所」でなくなったカイはベータにも関わらず、アルファに対抗できる頭脳の学生で、大学ではそれなりの繋がりを今では持っていた。 こっそり調べてくれる知人を見付けてくれた。 そんな便宜を測ってもらえる位にはカイは大学で期待されていた。 ショウのストーキングしながら良くそんな勉強する暇があるな、とも思うが、ショウも前程自由に出歩けなくなってるから前より遥かにストーキングは楽になってるだろう。 兄はショウが大学を出るのを待ってる。 カタチばかりの画家にして、自分がすべてを取り仕切り、閉じ込めるために。 もう、ベータ達と遊ぶこともそうそう出来なくなるだろう。 閉じ込められて、社会との接点は全て絶たれる。 ショウの未来には絶望しかない。 さすがのカイもそこまでは追ってこれないだろう。 そんな中 ショウは。 キタノがアルファだとしたら、と考えたのだ。 アルファは嫌いだ。 でも、キタノはオメガのショウよりショウの絵を見た。 そんなアルファだったら? ショウの絵を褒めてくれた。 そんなアルファだったら? キタノならいい。 ショウは思った。 それにキタノがショウの番になってくれるなら、ショウは兄から逃げ出せる。 兄が1番おそれていること。 アルファにショウを番にされること。 そうなったら兄はどうしようもない。 アルファ全てを敵に回せないからだ。 それを食い止めるためなら、兄は何でもする。 ショウが20歳になってカプセルが取り除かれることを1番おそれているのは兄だ。 フェロモンに反応してどこかのアルファがショウを番にしてしまうことをおそれているのは兄だ。 キタノが自分を兄から奪ってくれることを考えた。 そのイメージはショウに忘れていた感情を思い出させた。 希望だ。 希望。 キタノが兄から自分を救い出してくれる。 そしてキタノと暮らす。 ああ、キタノといた時の、普通の日々。 欲望とか支配とか、まとわりつくものがないあの空の下。 あそこにキタノは自分を置いてくれるだろう。 最初は好きになってくれなくてもいい。 少しずつ好きになってくれれば。 キタノも自分しかいなければ、自分のことを考えてくれるはず。 もしキタノがアルファで、あのオメガが好きなら、なんで番にしないの? つまり、割り込める余地はあるはず。 兄から逃がして。 そして自分を愛して。 キタノがアルファであることにショウは忘れていた希望を思い出した。 10歳の夜「逃げたりしません、兄さんのモノです」と言わされながら引き裂かれた。 父親と母親の目の前で貫かれ、助けを求め伸ばした手を見捨てて両親が出て行った。 その時に捨てたはずの希望が蘇ってきた。 そして。 カイが「あの男はアルファ」だと言いにきたとき、ショウは決めたのだ。 キタノは。 ショウの番だと。

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