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第18話

ああ。 ダメだった。 裸のまま、扉を叩きながらショウは泣く。 鍵をかけられ、閉じたドアを必死で叩く。 開かないとわかっているのに。 扉の中で、獣になったキタノが、あのオメガを抱くのがわかる。 番にするのだとわかる。 見えなくてもわかる。 後少しだったのに。 だったのに。 発情してフェロモンを放ち、キタノの発情を誘い、後少しで番になれたのに あのオメガが入ってきて、ショウを部屋の外に突き出したのだ。 もうキタノが交尾するオメガは部屋の中に1人しかいない。 それはショウじゃない。 ショウではないのだ。 ショウは声を上げて泣いた。 発情している苦しさよりも、それは強かった。 今、ショウからキタノは永遠に奪われた。 キタノが欲しかったのに。 そして、もう、ショウが兄から逃れる方法はない。 ないのだ。 そしてキタノは。 あのオメガのモノになってしまった。 泣いているショウの背後に立つものがいた。 物音よりも存在感がいることを教えた。 ショウはゾワリとした。 身体に鳥肌が立つほどの恐怖。 ソレは怒り狂っていた。 怒りが身体から溢れて、ショウのフェロモン以上にそこに立ち込めていた。 ショウはガダガダ震えて後ろを振り向き、声のない悲鳴をあげた。 ソレはショウのフェロモンが通用しない唯一のアルファだった。 そう。 親子兄弟の中ではフェロモンは、オメガとアルファとして反応しない。 近親交配をさける本能だ。 だが。 そのアルファは常にショウを犯すアルファでもあった。 ここにはいないはずの兄が、髪の毛を逆立ててそこにいた。 「ショウ!!!!」 化け物が吠えた。 怒り狂っていた。 化け物はショウが何をしようとしたのか知っていた。 自分から逃げようと、他のアルファの番になろうとしたことを。 ショウは生まれて初めて逃げた。 兄から逃げることなんて思いつきもしなかったのに。 素裸のまま逃げた。 発情は強く、誰でもいいからセックスしたかったが、殺されるという本能が性欲を抑えこんだ。 ショウは走った。 真っ白な身体を晒したまま。 人気の無い教室から、学生達があるく大学のキャンパスの噴水まで。 皆が裸で逃げるショウを見た。  ショウはそんなものを気にしてなかった。 ショウを支配者していると信じ込んでいた化け物がそうではないことに気付き、追いかけてきているのだ。 兄への感情は恐怖と嫌悪しかない。 とうとうおいつかれた。 殺されなかった。 兄はショウにのしかかると、無理やりショウの脚を押し広げた。 悲鳴が聞こえる。 ショウが叫ぶより先に 学生達が騒ぐ声が。 でもベータばかりのここでは誰も止めに来るものはいない。 怒り狂ったアルファを止めるものなどどこにもいない。 両親でさえ止めなかったのだ。 兄はショウの発情して濡れきった穴に自分のペニスを突き立てた。 殺されるより先に、大勢の前でショウは犯されたのだ。 ショウは哀れに叫び、同時に発情の意味を知った。 今までの快楽とはなにもかもが桁違いだった。 憎みながら、それでも感じてしまう、兄とする時のあの快楽とは全く違った。 アルファなら誰でも良い、そんな快楽だった。 本当に誰でもよい。 ああ、コレなら間違いなくキタノを自分のモノにできたのだとわかった。 きっとキタノだって誰とでも良くなってた。 欲しい。 アルファが欲しい。 それだけしか思わなかった。 あの兄ですら構わなかった。 快楽は最初から感じてきたが、今初めて、嫌悪なく兄を受け入れることができた。 心から兄、いや、アルファが欲しいと思っていた。 だってこれはアルファだ。 他はどうでも良かった。 どうでも、いい。 あひゅう ショウは喘いで、喉を逸らし尻を揺らして欲しがった。 もっとぉ 奥、 奥にぃ 大勢の前であることもどうでも良かった。 この誰でも良いアルファに奥深くまで貫かれ、精液でそこを満たしたかった。 突き立てられたペニスを欲しがった。 襞が兄のペニスに絡みつき、ショウは尻をふり動かし、少しでもその形を中で感じようとする。 怒り狂ってショウに突き立てたくせに、兄は気付いた。 兄はこの世界でただ1人ショウのフェロモンに反応しないアルファだからこそ。 兄のは怒りと欲望であって、ショウの動物的な発情とは違っていたからこそ。 「・・・お前は・・・1度もオレを!!!!」 それは悲しい叫び声だったかもしれない。 弟に執着し、他のアルファに渡すことを拒否し続けた狂った男は、今知った。 弟が本当に自分を欲しがったことなどなかった、と。 本能が嫌悪を溶かし、アルファが欲しいだけになったショウ、初めて本当に兄を欲しがってるショウを抱いているからこそ。 「お前は、お前は、オレのだ!!オレだけのだ!!」 それでも兄はショウをむさぼる。 大勢の前であることを忘れて。 ショウもまた「アルファ」に喜んだ。 人の目なんてどうでも良かった。 アルファが良かった。 たまらなく良かった。 何の嫌悪もなくアルファとするセックスは快楽以外の何物でもなく、ショウは心のそこから楽しんだ。 奥まで抉るコレが、嫌悪さえ無ければ最高のペニスでしかなく、貫かれ殺されることも何度でも繰り返したい死でしかなかった。 「オレの・・・オレだけの・・・渡さない渡さない!!!!」 兄の悲鳴がきこえても、ショウにはどうでも良かった。 心から快楽に、アルファの美味さに、飢え貪り、堪能していた。 獣のように。 笑った。 楽し過ぎた。 キタノを失った痛みも今は無い。 それでも微かな喪失感はあった。 だが、兄についてはどうでも良かった。 ここにあるのはただの肉だった。 もう憎しみさえ消え果てていた。 これがアルファとオメガの発情か、と思った。 そこには快楽しかなかった。 「ショウ!!ショウ!!ショウ!!」 でも悲鳴を上げていたのは兄だった。 ただのアルファとオメガになることに苦痛を感じていたのは兄だった。 とうとう引き離された。 防護服を着て、ショウのフェロモンを防いだアルファが数人がかりで兄を抑えこんだのだ。 ショウは残念に思った。 ただのアルファな兄ならもっと喰ってやっても良かった。 兄はそのまま捕まり、許されることはなかった。 番にできないオメガを、自分のモノにしようとしたからだ。 そう。 ショウは自由になったのだ。 やっと。

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