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第4話
車に乗り込むといつも通りもう一人乗ってて…
「しーくん!お疲れ」
彼女と僕の共通の知人であるキミさんだ。綺麗で小柄で男受けしそうな見た目の彼女…子供も同い年だし家もご近所さんだから良く出会すんだけど…だからといって挨拶程度しか会話もない。ママ友さんが間にいるから話すような人。悪い人ではないし何かと気にかけてくれるんだけど…
普段はおっとりおとなしい話し方の彼女はこの日なんだか別人みたいに大声で早口で話してる。
「そういえばさ、しーくん」
「ん?何?」
「この間見たよーすっごくイケメンの人と一緒に歩いてたでしょ?何?浮気?あんなにいい旦那さんがいるのに?ただでさえ男で子供産んでるなんて気持ち悪いのに更に浮気とか何様なの?旦那さんのお金だけで生活してるのに信じられない!気持ち悪い!」
「は?」
…イケメンと歩いてた?…記憶を辿ると一人だけ思い浮かんだ人。それは最近引っ越してきたご近所さんで僕と同じで出産を経験して旦那さんの仕事の都合でこっちに来たっていう男性。スーパーとか近所のこと教えて欲しいって僕の旦那に頼まれて案内した人だ。旦那と同じ職場で可愛がってる後輩くんの奥さんだった。
「あ。その男性は友達だよ。旦那も知ってるし寧ろ紹介されたわけだしそういう関係でもないよ。最近越してきたから近所を案内してた。びっくりしたぁ…何のことかわかんなくて」
「うそだ!」
ここが飲食店なのも忘れてるんだろうか?と思えるくらいの大声で叫ぶ
「ちょっと!キミちゃん!落ち着きなよ。ここ家じゃないんだからさ」
えっちゃんが言ってくれるんだけど…彼女は全く聞く耳を持たなくて大きな店中に響く声で続けた
「しーくんさ!前から言おうと思ってたんだけどさ!」
彼女の剣幕にえっちゃんも呆気にとられてる
「男なんだからいい加減に仕事でもしたら?旦那がしなくていいなんて本気で思ってるわけ無いでしょ!だってしーくん男だし」
男だということを連呼する彼女はいつもの可愛い顔ではなくてはんにゃみたいでなんだかもったいない
「そもそもさ男同士で結婚して男で出産とか気持ち悪い以外の何者でもないんだけど!」
そっか…本当は…ずっと…そう思われてたんだ…そう思うとすごく悲しいし苦しい。僕は彼女のことは嫌いではなかった…なのに…一瞬で心を砕かれて…
周りからこそこそと噂話してる姿が目に入った。僕を指差しながら嫌悪を浮かべる人も沢山いた。すごく居心地が悪くて…
「…ごめんね。そんなに嫌われてるなんて気づかなかった。不快にさせてごめんなさい…これまで会話してくれてありがとうね。じゃあね。バイバイ」
お金を置いて店を出ようとする僕をえっちゃんは止めようとしてくれたけど大丈夫だよと言う意味を込めて彼女をみて微笑んで手を振った。
必死に彼女を足止めしようとキミさんが彼女の手を強く握ってたのを目にして背を向けた
そのまま行く宛もなく歩いた。家に帰ることがなんだか出来なかった。
家とは逆の方向に歩いて気付けば駅まで来てて涙をこらえながら電車に乗り込んだ。
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