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第29話
悠衣side
しーくんに想いを伝えて無理矢理関係をもってしばらく経った。
しーくんを抱いてるときはすごく幸せで満たされてるのに…終わった瞬間とても虚しくなる。
おかしいことはわかってる。しーくんにとっては俺の思いは迷惑以外の何物でもないこと。こんな関係ずっと続ける訳にはいかない事。理解してるんだ…だけど…どうしても…しーくんが好きで仕方なくて…
しーくんが男として好きなのは…親父だって言ってるけど本当は…あの人だと思う。
あの人がどこの誰かはわからないけれどあの人とのことが俺に知られるまでは確かに幸せそうだったんだ…
俺が無理矢理組み敷いたせいで前みたいにふんわり笑うことはなくなった。
どこか貼り付けた笑顔を向けるようになった。
「いらっしゃい」
「矢夜」
「悠衣!すっごい顔色悪いけど大丈夫?」
「…」
「またしーさんとなにかあったの?」
矢夜にだけは 俺がしーくんに想いを寄せてることも無理矢理抱いたことも話してる。唯一信用のおける友人だ。
友達は多くてもすべてをさらけ出すことは恐ろしくてどうしても取り繕ってしまう。
そんな俺の本質を唯一見抜いたのが矢夜だった
「取り敢えずあがって」
「ん…」
矢夜の部屋が唯一安らげる場所にもなっていて最近は入り浸っている。
縁あって同じ実業団にスカウトされたため卒業後も一緒だ寮も同室になることも決まっている。ずっと一緒なのは心強い
「今日はする?」
「する」
「オッケー。準備してくるわ」
そしてセフレでもある。お互いに欲を発散するには丁度いい相手だ。体の相性も良くてしーくんに関して何かあったとき矢夜にぶつける
週末親父と2人きりで旅行なんて…嫌すぎる。最近はしてなさそうだったけど知らない土地ってことできっと盛り上がって…
「ちっ…くそが…」
親父が浮気したことは今でも覚えてる。相手を知ったのはそれから随分とたってからだった。その息子から聞かされたのだ。俺の親父と自分の母親がそういう関係だったんだと。
まさか友達と思ってた相手の親なんて胸糞悪い…
しかもそいつがそれをしーくんには知られたくないだろうと脅してきたのだ。そして俺に関係を迫ってきた。ずっと好きだったんだと言い出したときは吐き気を催したものだ。しーくんは相手を知らないはずだ。しーくんに相手のことは知られたくなくて何度かあいつのことを抱いた。
確かにあいつは母親譲りのきれいな顔立ちで人当たりもよくとても人気はあった。本人もそれを当然のように振る舞っていた
仕舞には自分が迫ってきたくせに自分と関係を持てて幸せものだなと言い切ったのだ。
しかしその関係はそれからすぐ終わった。
あいつの母親のやってきたことがしーくんの友人であるえっちゃんさんにより多くの人に知れ渡ることとなりこの地に居辛くなったあいつらは一家揃ってこの町を出ていった。あいつの母親は他にも多くの男と関係していたのだ
あいつの父親は自分の管理不行き届きだと全ての人に謝罪した。同時に責任を持って真っ当な人間にすると話し頭を下げた
謝って済む問題でもないが何もないよりはマシなのかもしれない。
そういえば…
「そうか…あの人のことだったんだ…」
あいつら一家が出ていく少し前にしーくんの友人のえっちゃんさんが
「これかれもしかするとしーくんに変化が訪れるかもしれない…けれど責めないでやって欲しい」
とわざわざ頭を下げてきた。それがあの男のことだったのかもしれない。
「…知らない振り…しててくれてるんだな…」
えっちゃんさんはきっとしーくんのことを大切に思ってくれてる…だったら俺が今後どうすべきか…
考えて…考えて…答えが出た頃に戻ってきた矢夜を抱き締め何度もキスをした。
「ふっ…ん…どした?悠衣。まだ入れないの?」
「なぁ。矢夜」
「ん?」
「お前俺のこと好き?」
「は?急だなぁ。どした?そりゃ好きでしょ?じゃなきゃこんなことになってない。お前が幸せなら俺はそれでいいし嫌なことあれば一緒に抱えたいし。何があっても俺はお前の味方でいるよ。だって親友だろ?」
「うん。今はそれでいいや」
「は?なっ…んん…悠衣…」
これまでにないほど矢夜を大切に抱いて一緒に眠りに落ちた
なぁ。矢夜。俺もう終わりにする。しーくんへの思いも…無理矢理迫ることも…受け止めてくれるだろ?
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