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第43話
「止めてください!」
必死で首を振るけど男は執拗に俺の唇を追い口内を犯していく。芯まで溶けそうなくらい濃厚で心地良いそのキスに酔いが回ってしまいそうだ。やっと唇を開放してくれた彼は優しく…けど申し訳無さそうに…言葉を紡いだ
「旦那に飽きられてんじゃないの?」
「は?」
「…君の旦那ね…俺のパートナーの家に入り浸ってる…」
片手で俺の腕をまとめ上げるとスマホを取り出して操作し始めた
わけがわからないまま男の顔を見つめていると思い出してきた。ともくんとも夫ともまだ出会ってない時にサイトに登録してて出会ってきた多くの人のうちの一人。
出会ったその日食事に連れてってくれてそのまま彼の家で関係した人。それまでに出会ってた人たちと同じでただやりたかっただけだろうから一度抱いてポイなんだろうなぁ…なんて思いながら身を委ねていた俺をどこまでも甘やかしてくれて優しくしてくれた人だ。
その日以来会うことはなかったけど他の人たちと違って連絡を断ったりしなくてメールで偶に連絡をくれては俺のことを気にかけてくれた。
夫と結婚するまでは連絡をくれたけど結婚するって話したら夫に悪いからって連絡をやめた人
「虹彩 さん」
「くすっ…思い出してくれたんだ…俺ね君のこと忘れられなかったんだ。…君が沢山の人と出会い交流していくことで花開いていく姿をずっと見守っていたかった。君が結婚するって言ったときには驚いたけど相手のことも調べていい人そうだったから身を引いたの。その後君に似た雰囲気の今のパートナーと出会って一緒に過ごしてきたんだけどね…その彼に本当に好きな人ができたんだ。それが君の旦那さんだった。君の旦那さんは…容姿はまあ…いい意味で普通だよね。けど仕事もよくできるし家族思いで何より君のことを愛していた。けど…君が…不倫…したんだって?悩みを聞いているうちに彼に惹かれていった俺のパートナーは俺に申し訳なく思ってすぐ話してくれて…その相手も俺に紹介してくれて…」
虹彩さんは寂しそうに呟いた。
「けど同時に…嬉しかったんだ。パートナーが本当に好きな人と巡り会えたこと…俺たちは利害が一致したから側にいただけだ。長く生活をともにしてきたから勿論情はあるけどね…それに…君の夫が君から離れたら君は一人でしょ?…あ。あった…ほら」
目的の写真を見つけたのか俺に画面を向けた。そこに映るのは仲睦まじそうに頬を寄せ微笑んでいる夫と柔らかくて優しい感じの男だった。
夫のこんな穏やかな表情はともくんのことが知られてからは見られなかった…
愛していると呟く声も中身がないように聞こえたこともあった…その写真にショックなんて感じなくて…どこかでホッとしてた
「あ…ははっ…」
急に笑い出した俺がショックを受けたのかと思ったのか虹彩さんはそっと手首を開放してくれて優しく抱きしめ頭を撫でてくれた。慰めるように
「…安心しました。こんなに幸せそうに微笑んでいる…俺は…彼を傷つけてばかりでしたから…」
「しおりくん…」
「虹彩さん…ごめんなさい…あなたの大切なパートナーだったのに…俺が…不倫なんてしたから…こんなことになってしまって…きっと彼はとても優しい…いい人なんですね…」
「しおりくん…俺と…このあと過ごしてくれないかな?」
「…虹彩さん。ごめんなさい…今日は帰ります…」
その時俺を呼ぶ声がした
「しおりさん!大丈夫ですか?」
聖純くんだ。戻らない俺を心配して来てくれたんだろう
「同僚が待ってるので行きます」
「待って…これ。俺の連絡先。今後のこと旦那さんも交えて話したいから…連絡して」
「わかりました。じゃあ…これで…先に行きますね」
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