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第58話
浴室から出ると美味しそうな匂いがしていた。
ここに来て何も口にしていなかったのでお腹が大きく鳴いた
その音にともくんが笑ってくれて…あの頃のともくんが見えた気がした。
「おかえり。そこ、座って」
俺の隣につぐが眼の前にともくんが座る。メグさんはともくんの隣でつぐの前だ。
「初めまして。ともさん。息子の繋です」
繋を見るとともくんはゴクリと喉を動かし静かにうなずいた。
「つぐは全て知ってるから大丈夫だよ」
「ごめん…ごめんなさい…ごめんなさい…愛してしまってごめんなさい…」
ともくんは何度も何度も謝罪の言葉を口にした
つぐは困ったように笑い立ち上がるとともくんの側に膝を付き微笑んだ。ともくんの震える手の上にそっと手を乗せてゆっくり言葉を紡いだ
「ともさん。大丈夫。ともさんのこと恨んでなんかいません。嫌ってもいません。寧ろお礼が言いたいんです。しーくんを愛してくれてありがとうございます。しーくんは息子の俺にとっては素晴らしい人なので。しーくんを誰よりも愛してくれるあなたが俺にとっても大切な人です」
ともくんは顔を上げくしゃりと歪ませるとぽろぽろと大粒の涙を零した
「とーも!ほら。息子くんもそう言ってるんだし涙拭きなって!」
メグさんはそう言ってティッシュを渡した。それでつぐが涙でぐしゃぐしゃになったともくんの顔を丁寧に拭っていた。
「ほら。ご飯食べよ!ね?これから俺もしーちゃんも仕事なんだから。ここには繋くんがいてくれるからね。困ったら繋くんを頼って。今日は何もしないででるからさ。繋くんと過ごしな」
「ともさん。よろしくお願いします。ここにいさせてください」
ともくんは小さく頷いた
「さて食べよっ!!いっただきまぁす!!」
みんなで食卓を囲んで食べたらとてもとても美味しく感じた
「美味しいっ!!」
「へへっ!そう言ってもらえてよかったよ。ともからしーちゃんはとってもお料理上手だって聞いてたから勉強したかいあったな。ともは消化のいいものにしたからゆっくり食べて。」
「ん…ありがと」
「…ともとこうして食事できるなんて…夢みたい」
少し涙目になりながらメグさんが呟いた。
優しくともくんを見つめながら言っている表情が怖いくらいきれいだった。あぁ…この人は本当にともくんのことを愛しているんだなって痛いくらい伝わってきた。こんなに愛してくれる人が側にいるのにともくんが俺にこだわる理由なんて見付からなくて…献身的に尽くしているこんな人がいるのに…どうして?
わからない…俺は快楽を貪るだけの獣でしかなくて相手の想いなんて汲み取ることなんて一つもできないような酷い人間なのに…
「しーくん。顔あげて」
隣に座る繋が小さく呟いた
「ともさんの表情一つ一つを見逃さないで。いま大切なのはともさんの思いだから…」
ともくんは俺だけを見つめていた。虚ろな瞳に俺だけを映している
目が合うと少しだけ表情が柔らかくなった気がした
「ともくん。美味しいね」
ともくんはコクリとうなずくとまたスプーンを動かし始めた。俺を見つめたままで…
そうして朝食を終え支度をする。片付けを終え仕事着に着替えたメグさんは可愛らしいよりすごくかっこいい大人な男性に早変わりだ。あの大きな会社の社長であるともくんの代わりを担えるすごい人なんだと改めて思いしらされた
「繋くん。とものこと頼んだよ」
「はい。いってらっしゃい」
つぐとともくんが揃って見送ってくれた
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