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第5話

「なぁ、旭葵、お前めっちゃ喧嘩強いから、僕たちの尾張に入ってよ」  旭葵はクラスメイト達からこのような勧誘を何度か受けた。  当時、子ども達の間で戦国合戦という遊びが流行っていた。それぞれが自分たちの国と称して陣地を設け、合戦を繰り返し領土を拡大していく。  戦い方はその時々によって違っていて、騎馬戦もどきのものだったり、赤い絵の具を入れた水鉄砲だったりした。が、稀に本当の喧嘩になる時もあった。  それもあってか、喧嘩が強いリーダー格の子がその国の武将となり、一番狙われる存在でもあった。戦で武将の首を取るのは本当の戦国時代の戦と同だ。つまり騎馬戦だったら武将の子がハチマキを、絵の具の水鉄砲だったら、頭や胸といった致命傷に絵の具をつけられたら終わりだ。  遊びには男の子だけではなく、女の子も参加していた。女の子は主にその国の姫役だった。    武将役の子が気に入った女の子を姫にすることが多かった。  女の子たちにとってこの遊びは、ちょっとした恋愛ゲームのようで、意中の男の子が武将役だと、女の子の方から姫にして欲しいと名乗り出ることもあった。  実戦には加わらないが、巧妙な策で影から武将の男の子に指示を出す強者の姫もいた。また気に入った女の子が他の武将の姫になった場合、戦で奪い取るなんてこともあった。 「旭葵だったら、尾張の武将にしてやってもいいしさ」 「あいつはどこの国なんだ」 「あいつって?」  旭葵は教室の隅で友だちと戯(じゃ)れあっている一生を指差した。 「一生は三河の武将だよ。三河は最近できた国なんだけど、今すごい勢いで領土を広げてるんだ。この前も4年生の越後の国を破ったらしい」  遊びは学年を超えて流行っていた。 「ねぇ、旭葵、尾張に入ってよ」 「考えとく」  はっきり言って、旭葵は戦国合戦にはあまり興味はなかった。けど、一生に報復するにはどこかの国に入って、三河を叩き潰すのも悪くないと思った。それが武将という肩書き付きであるのなら申し分ない。    でも、もしもまた無惨に負けたらどうする?  旭葵も馬鹿ではない。一生と自分の力量はあの時で十分に思い知らされた。一対一では一生には勝てない。かといって、正攻法でない手を使って勝っても意味がない。戦国合戦に加わわれば、いづれ一生と戦うことになるだろう。  結局旭葵はどこの国にも入らず、戦国合戦をやっていない子らと一緒にいるようになった。初めて会ったあの日以来、一生とは一度も口をきいていなかった。

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