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第6話
小学校の近くに木村商店という町に1軒だけの駄菓子屋があった。子ども達からはキムショーを呼ばれている。
その日、旭葵は学校帰りに友だちとキムショーでアイスを買い近くの公園に行った。旭葵がこの町に引っ越してきた初日に通りかかった公園だった。
あの日と同じようにジャングルジムの周りに子どもたちの姿があった。が、よく見ると、大きい子と小さい子が混じっていて、あの時あった旗と違う模様の旗が立っている。
どうやら前の日の丸を逆にした旗を掲げていた国が合戦に敗れ、領土を奪われたようだった。
旭葵たちがブランコに座ってアイスを食べていると、ジャングルジムの方から大きな子どもが3人こちらに向かってやって来た。6年生だった。3人はジロジロと不躾な視線を旭葵に投げてくる。
「ねぇ、ねぇ、君」
旭葵は3人を無視し、かまわずアイスを舐め続ける。
「ねぇ、そこのガリガリ君ソーダ味を食べてる君だよ」
旭葵の両隣にいる友だちが不安気に旭葵の方を見る。
「転校してきた3年生の可愛い女の子って君だよね」
旭葵の両隣から、ヒッと声が聞こえた。
旭葵のクラスメイト達は旭葵が男の子であることを知っているが、他のクラスやましてや学年が違うとなると、そうはいかない。
旭葵はガリガリとアイスを噛み砕く。
「まだどこの国にも入ってないんだろ。俺たち6年が仕切ってる駿河の姫にしてやってもいいよ」
旭葵は残った最後の欠片を口に入れ、握った棒を反転させる。
「姫だよ、嬉しいだろ」
「な〜んだ、ハズレかぁ」
旭葵はブランコを大きくスイングさせ、一番高いところで飛び降りた。飛び降りる時、思いっきりアイスの棒を6年生の顔面目がけて投げつけた。棒は見事、6年生の額に命中した。
「誰が姫だ、ざけんな俺は男だ」
地面に着地した旭葵は、バウンスしたボールのように6年生に頭から突進した。
そこからはいつものように乱闘が始まった。
6年生3人は最初こそ何が起きたのか分からずたじろいだが、旭葵が男の子なのが分かると、猛然と反撃してきた。
さすがの旭葵も今回の相手は6年生3人。
「だ、誰か大人呼んで来なきゃ」
旭葵の友だち2人は慌ててその場から駆け出した。
旭葵は思いっきり顔面にパンチをもらい、鼻の奥からタラリと生温かいものが流れ落ちてきた。キッと顔を上げ、再び攻撃に備えて体を構えた時だった、目の前の6年生が吹っ飛んだ。
驚いた他の2人が振り返った瞬間、立て続けに頭に蹴りが入る。よろける2人の先に立っていたのは、
一生だった。
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