7 / 158
第7話
なんとか持ち直した6年生3人が一生に襲いかかる。
そこから先は、6年生3人対旭葵と一生の戦いになった。
「おまえら、やべぇ」
6年生3人が公園から逃げて行く。それを見て、ジャングルジムの周りにいた子らも3人の後を追う。
公園内に旭葵と一生だけが残った。
「大丈夫か」
一生は旭葵に向き合った。
「血が出てる」
指先で旭葵の鼻の下を拭う。そう言う一生も唇の端が切れて血が滲んでいる。旭葵を庇って6年生の拳が当たったのだ。けれど一生に当たった一発はそれだけだった。
旭葵は……。旭葵は最初に鼻血を出した一発だけで、一生が加わってからは無傷だった。もし一生がいなかったらそれだけでは済まされなかっただろう。
「あいつらが悪いんだ、俺を女と間違えるから」
いつも両親や学校の先生にする喧嘩の言い訳。大人たちは決まって「だからと言って暴力はダメ」と口をそろえて言う。子どもでも、特に女子は大人と同じことを言う。
旭葵は悪くないのに旭葵も悪いと言う。旭葵が何か言おうとすると、「まずはこっちの話を聞いて」と、結局旭葵に最後まで言いたいことを言わせてくれない。そして結局なんの解決もしてくれない。だから同じことが繰り返される。
一生は旭葵の言い訳に、ただ、
「うん……」
とだけ、うなずいた。
「俺を姫にしてやるとかなんとか言いやがるから」
「うん……」
「って、お前も同じこと言っただろうが」
「うん……」
チッと、旭葵は舌打ちをした。
それでも旭葵は分かっていた。あの6年生3人と一生が違うことを。あの3人だけじゃない、一生は今までの誰とも違った。
旭葵を女の子と間違う奴らは旭葵が男の子だと分かると、手の平を返したように態度を変えた。大袈裟にがっかりしたり、旭葵をからかったり、ひどい時は怒り出す奴もいた。
旭葵は何もしていないのに、勝手に勘違いして勝手に裏切られたなんて言う。まるで女じゃない旭葵がダメなように言う。旭葵はただ旭葵なだけなのに、本当の自分が否定されたように感じた。だから嫌なのだ、女の子と間違えられるのは。
一生だけだった。旭葵が男の子だと分かっても、態度が変わらなかったのは。さっきの6年生だって旭葵が男の子だと分かると容赦せずに殴ってきた。
あの日の浜辺で、一生は一度も旭葵に手を出さなかった。
ともだちにシェアしよう!