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第16話
そんな時だった、あの言葉が降りてきたのは。
『あなたはお父さんみたいにはならないでね』
気丈な母の涙を一生は初めて見た。笑顔が似合う人なのに、顔をぐしゃぐしゃにして泣く母が哀れで仕方がなかった。母をこんなにした父。尊敬し、憧れて、大好きだった父が憎かった。
『あなたはお父さんみたいにはならないでね』
長い間暗い土の中で眠り、明るい地上に顔を出したがっている新芽を踏み潰すように、一生は自分の心を封印した。
それが今日、再び一生に襲いかかってきた。
窓際に座る旭葵に光が当たって髪の色を薄茶色に見せていた。白いカーテンがレフ板のような役割をして、旭葵の白い肌をよりいっそう白く見せていた。
大きなアーモンドアイは長いまつ毛で縁取られ、目の大きさをより強調している。旭葵の瞳の色は髪と同じに、日に透けると薄茶色に見える。が、髪と違って瞳はその中に緑色が混じる。まるでビー玉みたいだ。
旭葵を初めて見たときもこんなふうだった。テントの白い布を剥がした時、最初、山の妖精か何かかと思った。
成長して、可愛いを脱皮した旭葵は美しいと言う言葉をまとうようになった。旭葵は世界一透明なガラスみたいに、これ以上ないほど純粋に、美しかった。
旭葵が短いため息をついた時、花びらのような唇の間から白い歯と濃いピンク色をした舌が覗いた。
その瞬間、背中を上から下にぞわりとなぞられるように電撃が走った。
舌の質感と温度を想像した。
艶かしかった。
自分の中心が熱を持ったのが分かった。過去に封印したはずの苦い熱だった。純白を犯したような罪悪感が一瞬で蘇る。
『お父さんみたいにはならないでね』
裏切ったのは、母との約束と友情。
「だからこれはダメなんだって」
一生はドアに頭を何度も打ち付けた。
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