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第17話

 結局、一生は美術の時間、教室には戻って来なかった。一生と同じクラスの子に、一生のスケッチブックや筆記用具を渡して、旭葵は自分のクラスに戻った。 ―さっきはどうしたんだよ?  メッセージを送ったが、既読にならない。  いつも昼は一生が旭葵のクラスにやって来て、大輝や湊の4人で食べるのに、一生は姿を現さなかった。昼を食べ終わって一生のクラスに行ってみたが一生はいなかった。  授業が終わって水泳部へ行ってみた。プールに一生らしき姿を見つけ、ほっとした旭葵は自分の部活へ行った。  旭葵は南米音楽研究部に入っている。本当は運動部に入りたかったが、中学の時、ことごとく試合で乱闘騒ぎを起こして退部になった。乱闘騒ぎの原因はいつものアレだ。 『このチーム女が混じってやんの』野次めいたものから、『ルール的に違反では』と、真顔で審判に抗議する選手もいた。  バスケ部、サッカー部、野球部を転々とし、いっそのこと柔道部に入ろうかと思ったら、なぜか部員の全員に反対された。  理由を聞いたら、『旭葵の乱れた道着姿は目の毒』などと、訳の分からないことを言われ、そこで喧嘩になったのもあり、入部を拒否された。  文化系に興味はなかったが部活紹介で、南米音楽研究部がチャランゴというウクレレのような弦楽器を演奏していた。小さいのに音も大きくきらびやかな音色に旭葵はすっかり魅せられた。  俺もチャランゴを弾いてみたい!  旭葵は南米音楽研究部に入部した。部の活動は文化系にしては盛んで、月、水、金、が定日だったが、他の日もほぼ誰かしらが部室で楽器を奏でていた。  部にはチャランゴ以外にも尺八のようなケーナやオカリナみたいな音を出すサンポーニャなどもある。演奏はアドリブも多く、やり出すとこれが結構ハマる。  水泳部が毎日なのもあって、旭葵は毎日南米音楽研究部に顔を出した。一生と旭葵はどちらか早く終わった方が相手の部室に迎えに行くのが暗黙の了解のようになっていた。  今日は火曜日で部の定日ではないのもあり、早めに切り上げ水泳部の部室に行った。 が、なんとすでに一生は帰宅したというではないか。  旭葵は一生に電話をかけるが、何度コールを鳴らしても一生は電話にでない。バスの中で沸々と怒りが湧いてきた。 ―なんで先に一人で帰っちゃうんだよ!  メッセージを送った。さっき送ったメッセージは既読になっている。  バスを降りると、旭葵は自分の家には帰らずに一生の家に走った。

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