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第18話

 一生の家は旭葵の家から歩いて10分程のところにある。一生の両親は離婚した後、お父さんが家を出て行き、一生とお母さんはそのまま元の家に住んでいる。  一生の家の玄関チャイムを連打していると、中から一生のお母さんが出てきた。一生のお母さんは看護師さんだ。肩に大きなバックをかけていて、これから出かけるところを見ると今日は夜勤シフトのようだ。 「こんにちは。一生帰ってるよね」  旭葵は挨拶もそこそこに家に上がり込もうと靴を脱ぐ。 「一生なら帰ってきてすぐ出かけちゃったわよ」 「どこに!?」 「さぁ。待ってたらそのうち帰ってくるんじゃない? 夕飯にカレーを作ってるの、よかったら旭葵君も食べていって。冷蔵庫にカルピスもあるから」  そう言うと、一生のお母さんはバイバイと手を振って行ってしまった。 旭葵は台所に行くと、冷蔵庫からカルピスを取り出し、グラスに氷と水を入れる。子どもの頃からしょっちゅう遊びに来ているので、どこに何があるのか勝手知ったるものだ。レンジのお鍋の蓋を取ると、カレーはカレーでもタイ風のグリーンカレーで、旭葵の苦手なパクチーが入っていた。  階段を上がって一生の部屋に行く。机にカルピスを乗せ窓を開けた。写真立ての中で、旭葵と一生が笑顔で頬を寄せ合っている。去年地元の肝試し大会で撮ったものだ。毎年一生と2人で行くのが恒例になっていて、写真の中の2人は今よりも少しだけ幼い。  一生の部屋はいつ来ても整理整頓されている。散らかすと母親が勝手に片付けるので、それが嫌な一生はそうされる前に自分で片付けるのだそうだ。  誰かが片付けてくれるなら、片付けてもらえばいいのに、と旭葵は思う。散らかし放題の旭葵はいつもお婆さんにしばかれながら強制的に片付けをさせられる。  本棚にずらりと今も連載中の漫画が並んでいる。それを見て、そのうちの何冊かが旭葵の部屋にあるのを思い出した。ずっと借りたままで返すのを忘れてしまっていた。  缶バッチが入った瓶があった。瓶を振ると中のバッチがカラカラと転がる。三つ葉葵の模様の上に、武士、足軽、などと書かれている。  旭葵はベッドにダイブした。一生の匂いがする。子どもの頃はお互いのベッドでよく一緒に眠った。さすがに最近は狭くて一緒に寝ることはないが、一生の部屋に遊びに来ると、旭葵はまるで自分のもののように一生のベッドを占領する。  子どもの頃からずっと一緒にいるせいか、一生の匂いを嗅ぐと安心する。

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