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第21話

 6月も中旬に差しかかった頃、旭葵のクラスに東京から転校生がやって来た。長身のなかなかのイケメンで、クラスの女子たちは色めき立った。が、数秒後、彼の自己紹介で一気にクラス全体が微妙な雰囲気に包まれた。 「三浦隼人です! 俺は女も男もどっちもイケるんでよろしく!」  新宿生まれの歌舞伎町育ちだと言う三浦隼人は、田舎の高校生にはオープン過ぎた。  けれど、それだけではなかった。隼人は呆気に取られポカンとしているクラスメイトたちの中から目ざとく旭葵を見つけ出すと、旭葵を指差して言った。 「うわっ、すっごい綺麗なおん」  その瞬間、担任教師が後ろから隼人の口を押さえ、最前列の生徒3人が飛びかかるようにして、こちらもまたその上から隼人の口を押さえた。 「? ? ?」  隼人は訳が分からず、目を白黒させている。 「三浦、如月旭葵にその言葉は禁句だ」  クラス全員が担任教師の言葉に激しく同意する。 「あれは、見かけだけで中身はすごい凶暴な生き物だ。騙されてはいかん」  真面目そうで妙に姿勢のいい、眼鏡をかけた男子が教師の言葉を補足する。  「彼を手懐けているのは、3組の桐島一生君だけです」  話し方もハキハキと隙がなく、隼人の中で彼のあだ名は委員長に決まった。 「なにが騙されてはいかんだよ。誰も何も騙しちゃいねぇって」  昼休み、旭葵は大輝と湊にぼやく。 「さっきはどうも」  大輝と湊の間からにゅっと顔を出したのは隼人だった。隼人の自己紹介に若干引き気味の女子たちだったが、なんだかんだ言っても東京からのイケメンに興味津々なのだろう、授業の間の休み時間、隼人は女子たちにずっと囲まれっぱなしだった。 「俺、三浦隼人、改めてよろしく」  旭葵は隼人を一瞥しただけで、握手を求めて差し出された手を無視した。代わりに大輝と湊がそれぞれ隼人に自己紹介をする。 「ねぇ」  と、隼人は旭葵を再び振り返った。 「なんで旭葵ちゃんは男子の制服着てんの?」  旭葵は隼人目がけてジャンプした。 「俺は男だ!」 「痛ってぇ」  旭葵から飛び蹴りを食らわされた隼人は、衝撃で床に尻餅をついた。再び隼人に蹴りを入れようとするが、今度は隼人も上手くそれから逃れる。 「おい! 誰か如月を止めろ!」  クラスの男子の1人が叫んだ。 「旭葵の洗礼を受けた方が、これからの三浦のためだって。現にさっき先生がせっかく忠告してくれたのにこれじゃん」  大輝がのんびりと返す。横でうんうん、と湊がうなずく。 「にしても、旭葵ちゃんだって。そりゃキレるわな」  ぷっと、大輝は吹き出した。

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