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第22話
旭葵は隼人を追いかけ回し、隼人はなんとか旭葵の攻撃から身を交わしているが、何発か当たり損ないのようなパンチをもらっていた。
「にしても、まあまあ頑張るね、あの転校生。僕なんか旭葵の最初の一発で伸びたもんね。あ、当たった」
旭葵から逃げる隼人を見て湊が感心する。
「俺は交戦したけど5分で完敗した」と、大輝。
教室の隅に隼人を追い詰めた旭葵の首を後ろから掴んだ者がいた。
「アサ、その辺にしとけ」
いつの間にか旭葵のクラスにやって来ていた一生だった。旭葵は一生に気づくと、最後に隼人をキッと睨んで顔を背けた。
「なんか今日は気分が悪い。どっか教室の外で昼食べようよ」
旭葵に一生、大輝と湊の4人が教室から出て行こうとすると、女子が2人一生に駆け寄ってきた。
「桐島君、クッキー焼いてきたんだけど、みんなと一緒にお昼に食べて」
「ありがと」
一生がクッキーを受け取ると、2人はヤッタ! と小さくガッツポーズをした。ハート型のクッキーが入ったセロファンの袋にはハート柄のリボンがかけられていた。
「みんなとじゃないだろ」
旭葵はボソっと呟いた。
「あのクッキーもらった背の高い奴、誰?」
隼人はさっきの委員長に訊いた。
「あれが3組の桐島君。見ての通り女子の人気ナンバーワン男。あの4人は如月君と小学校の時からの幼なじみなんだって。でも特に如月君と桐島君が仲がいいみたい。クラスがこうして違ってもいつも一緒にいるから」
「ふ〜ん」
隼人は旭葵のパンチが当たった右頬を押さえた。
「あの2人ってできてんの?」
「は? 何言ってんの? 馬鹿じゃない?」
委員長は怪訝な顔をすると、手元のスマホに視線を落とした。
「ま、それが普通の反応だわな」
隼人は呟いた。
隼人は子どもの頃から新宿界隈が遊び場だったため、お姉さんのようなお兄さんや、その逆のような人たちを昔から見慣れていた。両親に同性カップルの友人がいたせいもあり、隼人にとって同性愛は特別なことでもなんでもなかった。そんな環境で育ったせいか、小学2年生で初めて男の子にドキドキした時もなんの躊躇いもなく、その感情を受け入れられた。今ではむしろ片方の性しか好きになれない方が不便に思えるぐらいだ。
そんな隼人に新宿は居心地のいい街だった。ずっとここで生きていくのだろうと思っていたら、父の仕事でこの町に引っ越してくることになったのだった。
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