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第29話
「いっそのこと、クラスのみんなで行っちゃわない? だって三浦君は今年はうちの学校の生徒として出場するんでしょ。去年の優勝者の応援がちょっとしかいないなんて寂しいじゃない」
「そうだなぁ、今からじゃ学校からはどうにもできないが、クラスでならなんとかなるかも知れないな」
担任教師も乗り気だ。思った通りやばいことになりそうだ、と旭葵は焦る。
「あ、あのでも先生、その日は俺」
「如月君は絶対に来てね」
提案者の女子が旭葵の言葉を遮った。
「なんでだよ」
「悔しいけど、三浦君が如月君を気に入ってるからよ。こんな見かけ倒しの凶暴馬鹿のどこがいいのか知んないけど」
横で大輝が「凶暴馬鹿だって」と喉を鳴らして笑う。
「俺、無理。その日、用事あるもん」
「用事って何よ」
「地元の肝試し大会」
はあっ〜〜〜!?
呆れたのは提案者の女子だけではなかった。そこから旭葵はクラスの女子ほぼ全員から罵倒され小突き回された。
それを見ながら湊は隣の大輝に囁いた。
「女って怖いよな。旭葵が絶対に女には手をあげないの知ってるからさ」
「旭葵が自分たちより綺麗なのも気に食わないんじゃね?」
結局旭葵は隼人の応援に行くことをクラス全員の前で約束させられた。
隼人は旭葵を座らせると、そこら中の棚や引き出しを開けて回る。
「それにしても保険医の先生どこに行ったんだろ」
「畜生女たちめ、思いっきりやりやがって」
「あ、あった」
隼人はマキロンと絆創膏を手に取ると、旭葵と向き合って座る。
「自分でできるって」
「顔はやりにくいだろ。それになんか俺のせいだし。でも応援に来てくれるのは嬉しいよ。ありがとう。ちょっとじっとして目を閉じて」
旭葵の左瞼の上が少し切れている。マキロンを染み込ませたコットンを当てると、旭葵の体がビクリと跳ねた。
「肝試し大会ってそんなに面白いの?」
「面白いっていうか、毎年行くのが恒例になってるっていうか、けど、それだけじゃなくて」
「なくて?」
喧嘩も強く女子にもモテモテ、無敵に見える一生だったが、昔から一生が唯一苦手とするものがあった。それは“お化け”。
子どもの頃の一生は旭葵の家のトイレさえも怖がっていた。古い日本家屋のトイレは長くて暗い廊下の先にある。旭葵も最初は怖かったが、住んでいるうちに慣れてしまった。
夜中に台所でお婆さんが包丁を研いでいる姿を見たときは、ちょびっと漏らしてしまうほどビビったが、家のトイレとお婆さんに鍛えられたおかげか旭葵には“お化け”など子ども騙しに思えた。
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