32 / 158
第32話
「何があったか知らんが、いつまでもプリプリ腹を立てて男らしくないな」
家に来た一生に居留守を使う旭葵を見たお婆さんに怒られても、旭葵は一生を許す気にはなれなかった。
そうするうちに夏休みになり、7月23日がやって来た。
今朝から、いや正確には昨日の夜12時を過ぎた時から、旭葵はスマホを手放せないでいた。一生に一言“お誕生日おめでとう”とメッセージを送るべきか否か。それをずっと悩んでいる。
一生は諦めてしまったのか、ここ数日全く顔を見せない。一生への怒りが完全になくなってしまったわけではないが、今はただ意地になっているようなものだった。もし、一生が今にでも旭葵の家にやって来て、ごめんと言ってくれたら旭葵はすぐにでも一生と仲直りをするだろう。けれど、一生が旭葵の家の玄関を叩くこともなければ、メッセージの一通も送ってくることはなかった。
一生に今年は一緒に肝試し大会に行けないことも伝えられていない。喧嘩中だから今年は別行動だと思ってくれていたらいいが、もしそうでなかったらと思うとさすがに胸が痛んだ。そして何よりも、隼人の大会の応援に行くことを一生に言えていない。
結局何もできないまま、旭葵はクラスのみんなと大会が行われる会場へと向かった。
「もしかしてまだ一生と喧嘩してんの?」
バスの中で隣に座っていた湊が旭葵に訊いてきた。
「つうかさ、旭葵まだ地元の肝試し大会行ってんだ」
2人を心配する湊とは反対に、旭葵と一生の喧嘩を痴話喧嘩だと茶化す大輝が前の席から振り向いた。
「うん、一生と一緒に」
大輝と湊も何度か一緒に行ったことがあるが、肝試し大会は2人一組で回るのがルールになっていて、いつも旭葵は一生と、大輝は湊と組んでいた。
「前にさぁ、旭葵が大泣きして一生と戻って来たことあったよね」
湊が懐かしい目をして言った。
そうだ、そんなこともあった。
ともだちにシェアしよう!