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第37話
旭葵は最初何がどうなっているのか分からなかった。体を強く引っ張られ体のバランスを崩したかと思ったら、顎が上を向いて夜空が見えた。息ができないほど苦しいと思ったら、一生の腕の中にいた。
「いっ……いっせ……」
背中に回された腕にグッと力が込められ、より強く締めつけられる。旭葵と一生、どちらのものか分からない鼓動を挟み、白い月に見下ろされ、打ち寄せる波音だけが辺りに響いていた。
「アサ……」
旭葵の首筋にため息ともつかない低い声と温かくて柔らかいものが触れた。
その時、松林の入り口で人の声がした。
一生は旭葵を突き離すと声とは反対の方向にすごい勢いで走っていってしまった。
「ちょ、一生!」
チラチラと懐中電灯の灯りと共に近づいていくる声は、肝試し大会の一番バッターだった。
「包帯男がいなくなってどうするんだよ」
旭葵は温かく湿った感触の残る首筋に手をやった。
「な、なんなんだよ、今のは」
ふざけて後ろから羽交い締めにされたことは何度もある。けれどそれとは全く違う。
「正面からのあれってまるで」
一生から抱きしめられたみたいじゃないか。
今度ははっきりと自分のものだと分かる鼓動に旭葵は戸惑う。
今日、同じように隼人から抱きしめられた時はなんとも思わなかったのに。
アサ……。
その後一生は何かを言おうとしていた気がする。首筋に触れた一生の湿った声と、柔らかなあの感触。
あれは一生の唇だった。
思い出した瞬間、火が噴き出るほど顔が熱くなり、心臓が喉元まで跳ね上がった。
友人同士で抱き合うことがないわけではない。何かに驚いたり大袈裟に喜んだりした時に、大輝や湊と抱き合ったことはきっとある、多分一生とだって。けれど今のあれは明らかにそれらとは違う質のものだった。
アサ……、その後、もしかしたらありがとう、とでも言おうとしていたのだろうか。
「俺、そんなに一生が感動するようなこと言ったか?」
それともなんだかんだクールに見えて、自分の誕生日を祝うために旭葵が戻って来てくれたのがそんなに嬉しかったとか? それだったらさっきの一生の行動に説明がつく……ような。
本当に?
旭葵は自分の動揺をごまかすように無理に笑ってみた。
結局その日、いなくなった一生の代わりに旭葵が包帯男に扮することになった。
その夜、隼人から二連覇達成のメッセージが届いた。
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