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第38話

 次の朝、縁側でよもぎとゴロゴロしていると、お婆さんが庭でそうめん流しをやろうと言い出した。一生も呼べと言う。一生と仲直りをしたのはいいが、なんだか会いづらい。けど一度言い出したら聞かないお婆さんだ。  1時間後、スイカを持ってやって来た一生はいつも通りの一生だった。 「これ、風呂場で冷やしとくな」  一生は靴を脱ぐとスタスタと家の奥へと入って行く。少なくとも、一生が来るまで緊張していた旭葵は拍子抜けし、普段通りを装ったが昨日のことがどうしても頭から離れない。  そ、それだけ? 他に何かあるだろう。包帯男のお礼とか、それに……。  ボッと旭葵の頬が火照る。  なぁ、一生、昨日のあれはなんだったんだよ?  たったそれだけのセリフが言えそうで、絶対に言えないと思った。    アサ……。    一生の腕の力が、湿った息が、二人の間の鼓動が、それらが痛いほど一生が本気だと主張していた。 「アサ」  一生に呼ばれて旭葵は飛び上がった。 「さっきから全然そうめんすくえてないぞ」  流されていったそうめんがザルに山盛りになっている。  そもそも、事の発端の張本人がなんでこんなに普通なんだよ。畜生、なんで俺だけこんなにもんもんしなくちゃいけないんだよ。  旭葵はそうめんを貪り食べた。 「次は俺がそうめん流してやるよ」  旭葵が一生からそうめんの入ったボールを受け取ろうとしたその時、2人の手がほんのわずかだが重なった。  一生と旭葵の足元にそうめんが撒き散らされる。 「こら、旭葵は本当におっちょこちょいやな」  そうめんを拾おうとするお婆さんに代わって、すぐに一生が屈む。 「旭葵も手伝わんか」 「う、うん」 「アサはいいよ、それより新しいそうめん茹でて来て」  旭葵は水を張った鍋を火にかけると、他にすることもなく、ぼんやりとその前に立ち尽くした。  旭葵が一生の手に触れた瞬間、一生はボールから手を離した。一生は普通なんかじゃない。普通を装っているだけだ。きっと一生は旭葵よりもずっと……。

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