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第39話
残りの夏休み、一生は水泳部の合宿があったり、旭葵は旭葵で『真夏の夜のアンデスフェスタ』という音楽祭典で南米音楽研究部が演奏することになったりと、慌ただしい日々が続いた。
それでもその合間をぬって、お互いの家を行き来し、大輝や湊、時には隼人も加わってみんなでテーマパークに夏祭り、花火大会と満喫した。
それらの夏の思い出が、肝試し大会のあの夜に蓋をし、鍵をかけ、そして深い水の底へと沈める。
一生は相変わらず隼人を嫌い、普段と変わりなく、いや変わりないように振る舞っていた。
旭葵は気づいていた。あれ以来、一生は指一本も旭葵に触れようとしない。みんなで写真を撮る時、一生は必ず旭葵とは離れたところに立ち、テーマパークで乗り物に乗る時は、一生は大輝と湊のどちらかと先に乗り込んだ。
途中で湊はそのことに気づいたようだったが、あえて何も言わない湊の前で旭葵も何も気づいてないふりをした。
以前と同じようで、以前と違う。目に見えないガラスでできた爆弾を一生と2人で抱えている気がした。爆弾のスイッチは深い水底に沈んだあの肝試し大会の夜。
大丈夫、水面に波風を立てないようそっとやり過ごせば、いつか爆弾はなくなり、あの夜も泡となって消えてなくなる。そうすれば、旭葵と一生は今までと何一つ変わらない、幼じみで親友の2人だ。
実際に一生が旭葵に触れないことを除けば、他は何一つ変わらなかった。もともとベタベタした2人じゃない。ちょっと距離ができただけで、2人の精神面に変化があったようには思えず、時間が経つにつれ、次第に旭葵も一生との距離が気にならなくなってきたのは事実だった。
水底に沈んだ爆弾が薄らいでいくのが分かった。それでいい、ガラスの爆弾は爆発させてはいけない。このまま消えてなくなってしまえ。
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