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第41話

 あぐらをかいた一生の足の上でよもぎが喉を鳴らしている。  一生のお母さんが夜勤の時は、一生が旭葵の家に来て夕飯を一緒に食べることが多い。今日もお婆さんと3人で手巻き寿司をたらふく食べ、居間でまったりしている最中だ。  旭葵は畳の上に楽譜を広げ、チャランゴを鳴らしている。 「上手いもんだな」 「今年はソロパートもあるんだ、すごいだろ」 「そっかぁ、俺、今年は文化祭の実行委員で忙しいからアサの演奏は聴きに行けそうにない、残念」 「じゃ、今聴かせてやるよ。もう結構仕上がってんだ」 「おう」  縁側からの涼しい秋風がチャランゴの音色を乗せて吹く。  旭葵が曲を弾き終わると一生は感心したように拍手をした。 「今一瞬、俺アンデスの空を飛んでたよ」 「ハハ、当日はみんなポンチョ着て、それっぽい格好して演奏すんだ」 「ちょっとした仮装だな。アサのポンチョ姿見てみたかったな」 「仮装で思い出したけど一生、文化祭で仮装コンテストなんかに出たりしないよな」 「そんなのに出てる暇ないって。最終日は後夜祭があるから特に忙しいんだ」 「だよなぁ」  だったらもしかすると隼人が白馬の王子様部門で優勝するかも知れないな、と旭葵は思った。 「アサ、出るのか?」 「いや……」  旭葵は言葉を濁した。女装するなんて言いたくない、できればひっそりとやってとっとと終わらせてしまいたい。 「じゃ今年は一生と一緒に見て回れないんだ」 「まぁな、後夜祭もずっと忙しい感じ」 「もしかして一生、それ狙って実行委員になったのか?」  旭葵たちの高校は、後夜祭でキャンプファイアーを囲んでダンスパーティもどきのものが行われる。アメリカのテレビドラマ好きの校長が、プロムを我が校にも取り入れたい! と言い出したのがきっかけらしい。  後夜祭はたちまち告白タイムとして生徒たちの一大イベントとなった。  本場のプロムからオリジナルの発展を遂げ、生徒たちの間でラストダンスを踊った相手が本命、という暗黙のルールができた。なので最後の曲で踊りに誘われるということはイコール“あなたが好きです”と言われたのと同じになる。  そこからさらに発展して、ラストダンスを踊った相手とは両想いになれるなんていうジンクスが生まれ、去年はキャンプファイアーの後半、女子たちの一生争奪戦が繰り広げられたのだ。 「もう二度とあんな思いするのゴメンだからな」  キャンプファイアーが終わった時、一生はボロボロだった。制服のボタンは引き千切られ、なぜか髪の毛もむしり取られ、いろんなところが傷だらけになっていた。

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