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第42話

「アサ、あいつにラストダンス誘われても踊るなよ」  あいつとは隼人のことだ。 「踊るかよ」  一生はよもぎの両手を持ち、踊っているようにスイングさせた。嫌がるよもぎをしばらくダンスに付き合わせた後、一生はポツリと呟いた。 「アサはさ、誰かいたりするのか?」 「何が?」 「ラストダンスを踊りたい相手とかいるのかなって思ってさ」 「いるわけないだろ、クラスの女たちの俺の扱いを知ってるだろ、どうやったらあんな怖い生き物を好きになれるんだよ」 「同じクラスじゃなくても美術で一緒の他のクラスの女子とかさ、前にモデルになって欲しいとか言われてたし」 「それより一生こそ、いいかげん彼女作れよ。そうしたら諦める女どもも多いだろうからさ、今みたいな苦労しなくて良くなるんじゃね?」  一生はゆっくりよもぎの体を撫でつける。無理矢理ダンスを踊らされたりするのに、よもぎは一生に懐いていて、足の上で猫型のナマコみたいになっている。 「そうだよな……、作った方がいいのかもな」 「えっ」  旭葵は自分で話を振っておきながら、まさかの一生の反応に驚く。どうせまた自分は面食いだとか言って話をはぐらかされると思っていた。 「そんなに好きじゃない好きをたくさん集めるより、めちゃくちゃ好きが一つあればよかったんじゃないのかよ?」  思わず言ってしまった。 「そうなんだけどさ……。さてと、そろそろ帰るわ」  一生はナマコ化したよもぎを畳の上に移動させると立ち上がった。 「俺、キャンプファイアーでかける音楽選ばなきゃならないんだ。ラストダンスの選曲は責任重大だからさ、頭が痛いよ」  一生は居間で韓流ドラマを見ているお婆さんに夕食の礼を言うと、じゃあな、と帰っていった。  玄関の鍵を閉め戻って来ると、さっきまで一生が座っていた場所でよもぎが丸くなっていた。  もしかしたら、水底に沈んだガラスの爆弾はもうすっかりなくなってしまっているのかも知れない。それどころか、そもそもそんな爆弾は存在したのだろうか? 見えていたのは旭葵だけだったのではないか?  アサ……。  月夜に照らされたあの肝試し大会の夜。  旭葵は無意識に首筋に手をやる。  全てが幻想で全てが旭葵の思い過ごしなら、それが一番いいはずなのに、素直に喜べない旭葵がいた。  けれど喜べない理由は探らない方がいい。それをするのは危険だ。

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