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第44話

「実行委員は委員同士、俺たちは俺たちで楽しもう。当日は白馬に乗って迎えに行くから、ラストダンスを一緒に踊ってくれるよね、お姫様」  速攻飛んできた旭葵の右手を隼人はひらりと交わしたが、交わした先に旭葵の左手が待っていた。 「姫ゆうな! 俺を姫扱いしていいのは……」 「いいのは?」 「いや、なんでもない」  旭葵はすとんと椅子に腰を下ろす。ヴヴッとスマホが鳴った。  ―悪い、今日も一緒に帰れそうにない。  一生からのメッセージだった。  突き抜けるような青空の下、文化祭の日を迎えた。  旭葵のクラスは仮装コンテストに力を入れていることもあって、クラスの出し物は無難に縁日の屋台でよく見かける射的になった。これだと店番の数人だけで、あとは仮装の準備に回ることができる。  1日目と2日目に行われた南米音楽研究部の演奏もまあまあの成功を収め、隼人と大輝、英語部のスピーチで忙しい湊も見に来てくれた。  一生は言っていた通り文化祭実行委員で忙しいようで、2日間とも姿を見せなかった。  それどころかここ一週間ほど一生の顔を見ていない。メッセージを送るとすぐに既読になるが、返信はその日の夜遅くだったり、次の日の朝だったりする。  何度か電話で話した時はいつも実行委員の他のメンバーと一緒だった。一度夜の10時を回っていた時もあって、こんな遅くまで集まって何をやっているのだろうと思ったものだ。  そして文化祭の最終日がやってきた。  仮装コンテストは全部で三部門あり、最初に白馬の王子様部門、次に通常のミスコン、最後が女装部門だった。  一番バッターの隼人は朝から早速仮装の準備に取りかかっていた。金色の刺繍が入った白い軍服に赤いマントを羽織った隼人は、なかなかの王子っぷりだ。 「畜生、なんで俺たちが馬なんだよ」  隼人の横で馬の被り物を取った大輝がぷはっと息を吐いた。その後ろの布から湊が顔を出す。2人とも全身白いタイツ姿だ。隼人にメイクを施していた女子が手を止める。 「仕方ないでしょ、馬役の男子2人が揃ってお腹壊しちゃったんだから。あ、あとお昼ご飯は2人同じ物食べちゃダメだからね」 「あ〜、腹減ったぁ」 「旭葵、悪いけど何か買って来てくれないかな? 僕たちこの後まだ馬の練習しなくちゃいけないからさ」  湊が自分の鞄から財布を取り出す。  王子と馬役は3人騎馬戦の変形型のようになり、歩くのにちょっとしたコツがいる。朝から3人で練習しているようだが、なかなかの悪戦苦闘ぶりだ。 「金は後からでいいよ」  旭葵の出番は最後なのでまだ時間がある。

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