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第46話
もしかして、あの時一生はすでに迷っていたのだろうか?
『そうだよな……、作った方がいいのかもな』
どうする、一生? 今度こそO Kするのか?
さっきから胸に何か詰まったように息苦しい。旭葵はシャツのボタンを1つ外したが息ぐるしさは変わらなかった。ポケットに手を突っ込む。
「そうなったら、姫バッチは返上しないとな」
空のポケットに、バッチは一生と喧嘩した時に投げつけてそのままになっていることを思い出した。
そっか、姫バッチはもうとっくに自分のものではなくなっていたんだ。
なんだか視界まで暗くなってくる。
早く大輝たちに食べ物を買って戻らないと。
旭葵は重い足を引きずって歩き出した。
大輝にお好み焼き、隼人にはまだラーメンを奢ってなかったこともあり、ラーメンを買った。タピオカと共にその2つを持って旭葵はソロソロと歩く。
途中ミニブーケを売っている店の前を通りかかった。コスモスやガーベラを扱った1個300円のミニブーケに群がっているのは、女生徒たちではなく男子生徒たちだった。
「ラストダンスを申し込む時に一緒に渡せばO K間違いなし! すでにカップルの人も彼女に花を贈ればもっとラブラブに!」
その時、廊下の先に一生の姿を見つけた。背の高い一生はこういう時に目立つ。久しぶりに見る一生だった。
青い実行委員の腕章をつけた一生の腕に細い腕が絡まっていた。
旭葵は咄嗟に近くの教室に入って身を隠す。
細い腕の持ち主はその上履きの色から1年生だと分かった。最近人気のアイドルによく似た女の子で、男なら誰でも庇護欲を駆られるような、細くて小ちゃいマシュマロみたいな子だった。
「お、激カワちゃんじゃん」
旭葵の近くにたむろっている男子たちが本人には聞こえないような低い声で囁く。
「やっぱ、可愛い子はみんなイケメンに持ってかれるよな。あれ2年の桐島だろ、去年の文化祭で女子争奪戦がすごかった奴」
一生は去年のその一件である意味、校内で有名人になっていた。
「おい見ろよ」
彼らの指差す方向に旭葵もつられて顔をやる。2人はミニブーケ屋の前で立ち止まると、ブーケを選び始めた。
「去年のモテ男も年貢の納め時ですか?」
「今日花を贈るってことはそうだよな」
力が抜けて、旭葵は壁に支えられるように寄りかかった。
O Kしたんだ。
はっと短い息が漏れた。
そっかぁ、もうO Kしたんだ。
ははは、と弱々しく笑った。
激カワちゃんの本気の好きは、一生の一つあればいいめちゃくちゃ好きになれたんだ。
そっかぁ、じゃあ親友としておめでとう、良かったなって言ってやらないとな。
旭葵は手に持ったラーメンに視線を落とした。
早く戻らないと隼人のラーメンが伸びてしまう。
そう思うのに旭葵の意思とは反対に、体が壁と一体化してしまったように動かない。
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