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第47話
「でもさ、他の女の子にもブーケあげてそうじゃね?」
体は動かなくても耳だけは音をちゃんと拾う。
「それやってそう、あんだけモテんだもんな。平然と悪ぶれもせず何股もかけてそう」
一生への嫉妬もあるのだろう、話の風向きが一生を貶めるような方向に向いていく。
「桐島ってもう何人くらい女食ってんだろ」
「告白してきた女、全部食ってたりして。高2で両手じゃ足りませんてか? 俺も女の数自慢してみてぇ」
壁化していた身体が勝手に動いた。
お好み焼きがU F Oのように宙を飛び、ラーメンとタピオカドリンクが混じった雨が降った。その中を、一生を侮辱した男たちが次々と吹っ飛ばされる。
「一生はそんな男じゃねぇ」
頭から濁った雨を被った旭葵はドスの効いた声でボソリと呟いた。ぶさまに床にへたり込んだ男子の胸ぐらを掴むと、再び大きく腕を振り上げる。
「アサ!」
一生が人をかき分け走って来た。旭葵の握られた拳と、床でへたばっている男子たちを交互に見る。
「一生……」
「アサ、またやったのか、仕方ないなぁ、もう。せめて文化祭中は女に間違えられても我慢してくれると助かるんだけどな。こういうことがあると実行委員が怒られるっていうか」
一生を追って駆け寄って来た激カワちゃんが、濡れた床に足を滑らせる。とっさに一生が抱き止めたものの、スカートの端が濡れてしまったようだ。
「せんぱぁい、スカートが汚れちゃったぁ」
子猫のような甘えた声だった。
「誰かなんか拭くもん持ってないか?」
一生は辺りを見回す。旭葵はその場から駆け出した。
「アサ!」
旭葵は一生の声から逃げるように走った。途中足を滑らせ何度も転んだ。体のあちこちを打ち付けたが痛みは感じなかった。
ただ、少しでも早く、少しでも遠くに、一生と激カワちゃんから離れたかった。
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