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第48話
戻ってきた旭葵を見てみな絶句した。仮装担当の女子なんて大袈裟でなく悲鳴を上げてよろめいた。
「ひ、ひ、姫になる素材がっ……」
「旭葵いったいどうしたんだよ、その格好」
大輝はあんぐりと口を開ける。
「なんか変な匂いもするんだけど」
湊がびしょ濡れの旭葵に鼻を近づけ、髪についた細長いものを指でつまむ。
「なんだこれ、麺か?」
隼人だけが驚きながらも険しい顔をして旭葵を見ている。
「俺、洗ってくる」
戻って来たばかりの旭葵は踵を返した。
「洗うってどこで!?」
あっという間に旭葵の姿は見えなくなってしまった。
旭葵は普段運動部が使っている体育館横の水場に行くと、蛇口を思いっきり捻った。勢いよく飛び出してきた水の中に頭を突っ込む。
10月の屋外で頭から浴びる水は冷たかった。シャワーのようにガシガシと頭を洗う。鼻水が垂れてきたが、構わず水を浴びる。
冷たい水に混じって生温かいものが頬を伝った。
「旭葵」
旭葵の頭を打ちつけていた水が止まる。
「もう十分だろ、風邪ひくよ」
隼人の声だった。ふわりと頭をタオルで包まれる。
「こんなところにいていいのかよ、もうすぐ出番だろ」
旭葵はタオルで顔を隠したまま言った。
「そのまま聞いてくれ。今日コンテストが終わったら、俺は本気で旭葵にラストダンスを申し込む。それだけ。じゃ、行くよ」
隼人の足音が聞こえなくなってしまっても、旭葵はしばらくそのまま動かなかった。
旭葵が教室に戻るとすでに隼人たちはコンテスト会場である講堂に行った後だった。
「遅っそいよ、如月君!」
待ち構えていた仮装担当の女子達に囲まれ、濡れた頭にドライヤーを当てられる。
「そう言えば、桐島君が何度も如月君を探しに来たよ」
「一生が?」
いやでもついさっきの出来事が鮮明に再現されてしまう。
「なんの用事で?」
沈んだ声が出る。
「分かんないけど、なんか必死だったよ。一緒にいた1年の女子が「もういいじゃないですか」ってムッとしてたくらい、しつこく如月君のこと探してるみたいだったよ」
殴られた男子生徒達に旭葵に謝罪させろとでも言われたのだろうか。
「なんかメッセージも繋がらないって言ってたけど」
「俺のスマホは死んでいる」
シャツの胸ポケットに入れていたスマホは1度は頭から被ったラーメンとタピオカドリンクで、2度目は水道の下に頭を突っ込んだ時ポケットからほとばしる水の中にと、2度の水害で旭葵のスマホは完全に死んでいた。
なんだかもうヤケクソの気分だった。今だったらマリリンモンローだって何だってできそうだ。
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