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第50話
ミスコンが終わり、最後の女装部門が始まると会場は今までにない笑いや声援に包まれ大盛り上がりをみせた。
が、旭葵がステージに立った瞬間、場内は水を打ったように静まり返った。
数秒後、観客席が一つの大きなうねりになったかと思うと、嵐のような歓声が沸き起こり、しばらく収集のつかない状態となった。
本来騒ぎを鎮めなければいけない文化祭実行委員や教師達まで、自分達の仕事を忘れてしまったかのように、ある者は観客達と一緒に声を張り上げ、ある者は我を忘れたようにステージの上に視線を釘付けにされたまま立ち尽くしていた。
そしてコンテストの結果はというと、旭葵達のクラスは隼人と旭葵のダブル優勝となった。
ちなみにクラスからミスコンのエントリーはしていない。女装部門で旭葵が出ることを知っているクラスの女子達は部門が違うと言えども、旭葵と比べられるのが嫌で誰も出たがらなかったのだ。
彼女らの予期した通り、その年のミスコンの優勝者はちょっと可哀想だった。授賞式で3人並ばされ、旭葵の圧倒的な美しさの前に彼女の可愛さはすっかり霞んでしまった。
救いだったのは両手に花で真ん中に隼人がいたことだろうか。優勝したのにも関わらず半べそで優勝トロフィーを受け取る姿は見るに忍びないものがあった。
旭葵がトロフィーを受け取る番になると、観客席のあちこちから声が上がった。
「姫〜俺とラストダンス踊ってくれよ」
「俺俺、俺とお願いします!」
どっと笑いが起こる。すると隼人が表彰式の司会のマイクを取りあげた。
「諸君、姫には俺がすでにラストダンスを申し込んでいるから遠慮してくれたまえ」
再び起こった笑いの中、女子たちの「え〜っ、いや〜ん、王子さまっ〜」という嘆きの声も混じる。
司会が旭葵にマイクを向けた。
「王子はこう言っていますが、王子の申し出をお受けになりますか? それとも誰か他にラストダンスを踊る予定のお相手がいたりするんですか? ちなみにそれは男子? 女子? どっちです?」
司会の質問に男子達から野次が飛んだ。
「おいおい、姫の相手は男だろ〜」
「そうだ! そうだ! 夢を壊すようなこと言うな」
司会は慌てて言い直す。
「大変失礼しました。男性に大人気の姫ですが、どんな男性とだったらラストダンスを踊ってもいいと思いますか?」
この質問に「いいぞ、いいぞー!」と声が上がる。
それまでステージで一言も喋っていない旭葵が司会からマイクを受け取る。会場は息を呑んで旭葵の答えを待った。
「俺と殴り合いして勝ったら踊ってやる」
ドスの効いた旭葵の低い声に場内は静まり返った。
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