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第51話

「いや〜、さっきの旭葵の受け答えは爽快だったな」  隼人は旭葵にコーラのボトルを差し出すが、旭葵は首を横に振った。仮装コンテストの優勝者はそのままの姿で後夜祭を盛り上げてくれと言われていたため、旭葵も隼人も姫と王子の格好のままだ。  みんなキャンプファイアーの点灯式を見に行ってしまい、教室に残っているのは旭葵と隼人だけだった。大輝と湊に一緒に見に行こうと誘われたが、地道に仮装の衣装は重く、疲れていた2人は教室に残った。 「ラストダンスの返事、考えてもらえたかな?」  隼人がすっと旭葵の横に腰を下ろす。 「女子と踊れよ。隼人と踊りたがっている子いっぱいいるだろ。男も女もどっちもイケるんだったら女でもいいってことだろ」 「俺は旭葵と踊りたいんだ」 「俺は男となんて踊らないよ」 「じゃあ、女子と踊るんだ」 「誰とも踊らない」 「あいつは今日、旭葵をほったらかして女子と踊るのに?」  隼人は用心深く旭葵の反応を伺う。旭葵はそんな隼人の視線から逃れるように窓の外に目を向けた。  今ごろ一生は激カワちゃんと一緒にキャンプフィアーの点灯式を眺めているのだろうか。それとも忙しくてそんな暇はないだろうか。どちらにせよ2人が一緒にいるのに間違いない。大事なのは何をするかじゃないんだ。特別な日、特別な時間に誰と一緒にいるかなんだ。 「一生は関係ないよ」  そう、今自分がこんな気持ちでいるのと一生は関係ない。こんな、心にぽっかり大きな穴が開いたような……。 「今日、旭葵が泣いてたのはあいつのせいじゃないのか?」 「は? 誰がいつ泣いたって?」 「誰にも言わないよ」 「泣いてなんてない、ふざけんな」  振り上げた旭葵の腕を隼人は掴む。 「旭葵、誰とも踊らないなら俺と踊ってくれよ」  真剣な隼人に旭葵はため息をついた。冷やかしで旭葵と踊りたいと言っている男子達と隼人は違う。隼人は最初から真剣だった。ならば自分も真面目に答えなければいけない。 「そういう理由で踊るのは嫌だ。踊るんだったらちゃんと好きな人と踊りたい」  文化祭の後夜祭だからとか、周りのムードに流されてとか、そういうのとは関係なく、踊るならこの人しかいない、この人以外とは踊りたくない、そこまで思える相手。  そんなに好きじゃない好きがたくさんより、めちゃくちゃ好きが一つ。

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