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第52話
「俺のことは嫌い?」
「隼人のことは嫌いじゃないよ」
「じゃあ好き?」
「友達としては好きだよ」
「本当に? もしかしたら別の好きもあるのに旭葵がそれに気づいてないだけかもよ。なぁ、試してみようよ、旭葵の好きがどの好きか」
「試すって、なっ」
片腕を掴まれたまま腰を引き寄せられると、くいっと顎を上を向かせられた。隼人の顔が目の前に迫る。
「やめっ……」
旭葵の唇に隼人の唇が触れそうになる。
「ろって!」
空いた方の手を思いっきり打ち込む。
「痛てっ」
旭葵のパンチを顔面にもろに食らった隼人はよろけた。
「そういうことは女としろ」
隼人を突き飛ばすと旭葵は教室から走り出た。
「やれやれ」
隼人は旭葵に殴られた頬をさする。
「とんだじゃじゃ馬な姫だ」
教室の隅に立てかけられた鏡に自分の姿が写っている。
「格好は王子でもあの姫の王子は俺じゃないってか」
校庭からわっと歓声が上がったのが聞こえてきた。窓に寄ると井型に組まれた薪から力強い火柱が立ちのぼっているのが見えた。
炎を仰ぐように音楽が流れ始める。すでに校庭は生徒達でいっぱいだった。数人の女子が、3階の窓に立つ隼人の姿を見つけて手を振ってきた。
「俺だって、ダンスもキスも誰だっていい訳じゃないんだよ」
隼人は笑顔で手を振り替えした。
自分は一目惚れした初恋の少女と旭葵を重ねているだけだ。
隼人はそう自分に言い聞かせようとしたが、くすぶる想いを抑えることは難しかった。
すでにあのキャンプファイアーの炎のように、点火された想いは最後の一片が燃え尽きてしまうまで消せそうになかった。
聞こえてくる音楽でキャンプファイアーが始まったことが分かった。
「畜生、隼人の奴、変なことしようとしやがって。もう少しで俺のファーストキスを男に奪われるところだった」
未遂に終わったものの、旭葵は無意識に唇を拭う。
クシュン。
くしゃみが出で身体がぶるっと震えた。着物の裾を持ち、白い足袋でトボトボと暗い廊下を歩く。
「だいたいいつまでこんな格好してりゃいいんだよ。みんな自分達のことに一生懸命で他人なんか見てねぇよ」
これから始まるダンスタイムという名の告白大会で生徒達の頭はいっぱいだ。すでに結ばれているカップル達も2人の甘い想い出作りに忙しい。
窓ガラスに反射するキャンプファイアーの炎から旭葵は目を背けた。けれど炎は旭葵を追ってくる。炎は一生と激カワちゃんの姿を照らし出す。2人は手を取り合い音楽に合わせて踊る。
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