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第62話
遅刻してきた旭葵を見て担任の教師はギョッとしたような顔をした。
「如月、まだ化粧を落としてないのか」
「は? なに言ってるんすか」
旭葵は遅刻したのに悪ぶれもせず、不貞腐れたように自分の席についた。
1限目が終わっての短い休み時間、大輝は自分の顎をさすりながら旭葵をまじまじと見つめる。
「熱と一緒に体に溜まっていた毒素が持っていかれたというか、なんか漂白剤に一晩漬けられたみたいになってるぞ」
「前の俺が汚かったみたいにゆうな」
「大輝はホント、言葉のセンスないな。旭葵はいつも綺麗だけど、今日の旭葵は肌の透明感がすごいというか、唇なんかも桜貝みたいで美少年っぷりがすごいよ。それより身体はもう本当に大丈夫なの?」
「ああ、すっかり。せっかくの振り替え休日を寝て過ごして損した気分」
後夜祭のキス未遂事件などなかったかのように自然に話しかけてくる隼人に旭葵も普段通りに接することができ、どこかホッとする。
緊張しまくって迎えた昼休み、一生は文化祭執行委員の反省会があるとかで、旭葵は肩透かしを食らったような気分になる。手元のスマホ画面には一生からのメッセージが並んでいる。
―調子はどう?
―まだ熱下がってないのか?
―湊から聞いたけど、学校来たんだってな。もう身体はいいのか?
昨日から届いている一生のメッセージに旭葵は1度も返信ができないでいた。自分がどんな態度を一生に取ったらいいのか分からないのだ。
親友だと思っていた幼なじみに告白同然のキスをされた。なんであんなことしたんだとここは怒るべきなのか? それとも隼人のように何事もなかったかのように振る舞うべき? または告白の返事をちゃんとした方がいいのか。
告白。あれは一生の告白だったんだよな? でも口で言われた訳ではない。真面目に返事をして勘違いだったら死ぬほど恥ずかしい。
メロウな音楽、2人きりの空間。旭葵を閉じ込めてしまうような一生の一途な眼差し。
あれは、告白だった。
究極の想いがぎゅっと詰まった、震えるほど本気の告白だった。
あんな一生を見たのは初めてだった。一生の真撃な想いに心の準備なしに向き合ってはいけないような気がした。
放課後、ブルッと旭葵のスマホが震える。
―今、部活終わった。一緒に帰ろう。
「隼人、今日ラーメン食べに行かないか? ほら、ずっと奢ってやってなかったからさ」
旭葵は横でオカリナによく似たサンポーニャをいじっている隼人に声をかけた。文化祭で旭葵の演奏を聴いた隼人は南米音楽に興味を持ったらしく、今日さっそく部の見学に来たのだった。
「マジで? 行く行く」
旭葵は一生のメッセージにやはり返事はしないままスマホをポケットに入れた。
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