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第64話

『あなたはお父さんみたいにはならないでね』  この時ばかりは一生を束縛するこの言葉も、突き上げてくる衝動を抑えることはできなかった。  秘めてきたものを形にすることで、表面的とはいえ、今まで保っていた旭葵との友情を叩き壊してしまった。  冗談じゃ済まされないし、済ますつもりもなかった。旭葵はいたってノーマルで男が好きな訳ではない。  こんな形で旭葵と離れてしまうのは嫌だった。後悔しても遅いが、これ以上旭葵との関係を悪くしないためにも、旭葵とちゃんと向き合って話さないといけないと思った。 「でも意外だよな、三浦君は最初からカミングアウトしてたからアレだけど、まさか如月君が三浦君と付き合うとは思わなかったよ。如月君って女扱いされるとキレるだろ。だからてっきりそういうの人一倍ダメなタイプかと思ってた。つか普通そうだよね。男同士で付き合うとかあり得ないよね」 「は?」  こいつ何言ってるんだ?   一生は片方の眉毛を吊り上げた。 「あれ、もしかして知らなかった? 2人が付き合ってるの」 「アホらし」  一生は鞄を肩にかけ直し帰ろうとする。一生のぞんざいな態度にムッとした委員長が言葉を投げつける。 「僕見たんだからな。後夜祭の日、2人が教室でキスしているところを」  一生の足がピタリと止まる。 「あの日、クラスのみんなはキャンプファイアーの点灯式を見に校庭に出て行ってたけど、あの2人は仮装コンテストで疲れたからって教室に残ってたんだ。僕、鞄にスマホを忘れて取りに戻ったんだ。そうしたら2人が教室でキスしてた」  委員長は一生の背中を睨みつけた。が、一生は振り返ることなく、そのまま行ってしまった。  学校からバス停までの道のりがひどく長く感じられた。1歩1歩がドス黒い泥に足を取られているように重かった。名前の分からないぐちゃぐちゃなで乱暴な感情が胸の中で暴れ回る。    気づくと痛いほど強く手を握り締めていた。コントロールを失った心がどこへ暴走して行くのか、一生は全く検討がつかなかった。

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