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第67話
旭葵が家に入ると一生も黙ってそれに続く。
「いつからだ?」
「何が?」
そのまま廊下を進み、居間の電気をつけようとすると腕を掴まれる。
「いつからあいつとそんなふうになった? なんで俺に嘘をついた?」
「いったいなんのことだよ。つか手、痛いんだけど」
「あの日、俺の前にあいつと……」
一生の手から逃れようとして逆に捻り上げられ、もっと動けなくなる。
「あいつとどこまでしたんだよ」
「は? さっきから何のこと言ってるんだよ。ちょっ、マジで手痛いってば」
「俺には言えないことをしてるんだろ」
掴まれていた手が解放されたかと思うと、思いっきり突き飛ばされ、旭葵は畳の上に転がった。
「痛ってぇ、一生、マジでふざけんな」
居間の入り口を塞ぐように立つ一生を旭葵は睨んだ。廊下の電気が逆光になって一生が黒い大きな影に見える。
起き上がろうとしたところを馬乗りになられ、再び畳の上に押し倒される。明かりのついていない居間の畳の上で揉み合いになる。
今まで一生と遊びでは数知れず、喧嘩して本気でやりあったことも何度かある。けれど今日の一生はいつもと全く違った。
喧嘩した時でさえ、一生の旭葵の攻撃を交わす手は優しかった。攻撃はせず防御だけの、その防御でさえも、旭葵を傷つけまいとする配慮が伝わってくるような交わし方だった。喧嘩しながらも一生の根底にある旭葵への温かい想いが伝わってきた。
けれど今日の一生からは怒りがはっきりと感じられた。苛立ちが凝縮したような怒りが乱暴に旭葵を組伏せる。旭葵を殴りこそしないが、旭葵を征服しようとする力に容赦がなかった。
一生の顔めがけて放たれた旭葵の拳は叩き落とされ、そのまま畳の上に押さえつけられる。同時にもう片方の手も捕まる。
全体重を乗せて旭葵に覆いかぶさってきた一生はそのまま唇を合わせてきた。
「んっっ、ふっ」
息が止まり旭葵は大きく目を見開いた。まさかこの状況でキスをされるとは思わなかった。顔を逸らそうとするが、深く噛み付くようなキスがそれを許さない。
それはもはやキスと呼べないものだった。無理矢理唇を奪う暴力的な行為だった。固く引き結ぶ唇の間を強引に舌が割って入り、息ができないほど激しく吸われる。口内にビリッと電気のような痛みが走ったかと思うと鉄の味が広がる。
口の中のどこかを切ったのだ。一生の口の中も同じ味がしているだろうに、怯むどころかますます唇と舌を使って旭葵の口内を犯し続ける。
旭葵は体の中で唯一自由になる両足をバタつかせた。旭葵の口を塞いでいた一生の唇が旭葵の首筋に移動したかと思うと強く吸われる。
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