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第68話
「痛っ、一生止めろ、クソ、どけこの野郎」
旭葵はさっきより激しく足をバタつかせ暴れたが一生はビクともしない。体格的にも体勢的にも旭葵は不利だった。
一生の舌はうねるように旭葵の首筋をなぞり、時々立ち止まるように噛んだり吸ったりする。唾液で濡れた首筋に一生の熱い息がかかる。
これは喧嘩なんかじゃない、そんなんじゃない別のものだ。
得体の知れないその何かから逃れるために、旭葵はひたすら一生の下でもがいた。
ふいに掴まれていた左手が解放されたと思ったら、弾けるような音がして小さな丸い物が吹っ飛んだ。顔だけ横にそらせた目の前を、シャツのボタンがコロコロと畳の上を転がっていくのが見えた。
はだけた胸元に一生の手が滑り込んできた。汗ばんだ指先が旭葵の肌の上をまさぐる。旭葵の誰にも触られたことのない小さな芽を見つけるとキュッとつまむ。
「何そんなとこ触ってんだよ! 止めろってば!」
旭葵は自由になった左手で一生の背中を叩いた。その手は再び捕まり、頭の上に張りつけられる。それでも旭葵は一生の下で体をよじり懸命に拒絶を訴える。
これは喧嘩じゃない、これは……。
一生は終始無言だった。荒く短い息使いと、密着した身体から伝わる一生の体温と、一生の匂いだけが、暗い部屋で一生の輪郭を作っていた。それは一生であって旭葵の知らない一生だった。
生温かい生き物のような舌が首筋から鎖骨を伝って下に降りてくる。
「ほんと、やめっ」
ビクンと旭葵の身体が弓のようにしなった。一生の舌がさっき指でつままれ頭をもたげた突起の上を這う。回すように強く押し付けられ、軽く噛まれた後、吸われる。
旭葵は目を固く閉じ、口を引き結んだ。
これは、今自分の身に起こっているこれは… …。
一生の舌は執拗に旭葵の2つの濡れ立った芽の間を行き来した。
「いっせ……もうやだっ」
それを感じた時、
ドクン。
旭葵の心臓が握りつぶされたように鳴った。
旭葵の太ももに熱く硬いものが当たっていた。服の上からでもはっきりと分かる、大きく膨らんだ、そそり勃ったそれは、一生の怒りの奥にある荒ぶるような欲望だった。
声が出なかった。
喧嘩じゃないこれは、今、一生が自分にしようとしていることは……。
さっきまで必死の抵抗をしていた旭葵は、電池が切れてしまったようにパタリと争うのを止めた。左手が一生の背中から滑って畳の上に落ちた。身体に力が入らなかった。
空っぽになってしまったような身体にみぞおちを殴られたような痛みが生まれ、熱を持って喉を上がってきた。鼻の奥がツンとなり、痛みは目頭を熱くした。
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