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第71話
湊は妹と激カワちゃんの肩をいたわるようにさすった。唇の動きで『ありがとう』と言っているのが分かる。湊の妹は最後にもう1度旭葵に視線を向け、激カワちゃんと2人帰って行った。
「何があったんだよ」
戻ってきた湊に大輝が尋ねる。
「旭葵」
湊は旭葵に向き合うと、1度大きく息を吸った。
「一生が事故って病院に運ばれたの知ってるか? 詳細は分からないけど、結構ヤバそうだ」
今朝、授業が始まる前に湊の妹は文化祭で撮影したものを持って、一生の教室を訪れたのだった。舞台でチャランゴを演奏する旭葵の映像だった。
すでに担任からそのことを知らされていた一生のクラスには重い空気が漂っていて、女性徒の数人は泣いていたという。
「事故っていつ、どこで?」
大輝が急くように湊に訊いた。
「昨夜、海沿いの国道らしい。一生は自転車に乗ってて、松林の途中で見通しの悪い急カーブがあるだろ、そこで対向車とぶつかりそうになったんだって。一生が急ハンドルをきって衝突は免れたけど、大きく身体を投げ出されて。旭葵、昨日一生のお母さんから連絡はなかったかい?」
「スマホは……、昨日から電源を切ってる」
昨夜、一生が出て行った後、旭葵はすぐにスマホの電源をきった。
スマホを取り出すが、手が震えてうまく操作できない。スッと伸びてきた手が旭葵からスマホを取り上げると、代わりに電源ボタンを押した。隼人だった。
眠っていたスマホが息を吹き返すと、画面にずらりと着信通知が並んでいた。隼人がそっと旭葵の肩に手を置いた。
「旭葵、今から病院に行くかい?」
旭葵は画面を見つめたままピクリとも動かない。まるで隼人の声が聞こえていないようだった。
「旭葵」
隼人は旭葵の肩を揺らした。ハッとしたように旭葵は顔を上げる。
「旭葵、今から病院に行くかい?」
旭葵は小さくかぶりを振った。
「行かない」
「じゃあ、今日授業が終わったら速攻みんなで行こう」
「行かない、俺は行かない」
「は? 何言ってんだよ旭葵、一生はおまえの」
湊は大輝の口を押さえると、何も言うなと目で訴えた。
隼人は再び旭葵の手からスマホを取り上げると、着信履歴を開きリコールする。旭葵はスマホを取り返そうとするが、その手を跳ねのけられる。
一生の母親はすぐに電話に出た。
「一生君のお母さんですか。僕は旭葵君の友人で三浦隼人といいます。今、旭葵君の電話を借りてかけさせてもらっていて、旭葵君に湊君、大輝君と一緒です」
湊と大輝が固唾を呑んで隼人を見守る。隼人は旭葵の怯えたような顔に視線を向けながら、聞こえてくる一生の母親の声に耳を傾けた。
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