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第73話

 大輝と湊、隼人の3人が病室の前に来た時、ちょうど中からナース服に身を包んだ一生のお母さんが出てきた。一生は母親が働いている病院に運び込まれたのだった。 「あら、早速来てくれたのね」  一生のお母さんは空の食器が乗っているトレイを持っていて、それを廊下に停めているカートの上に置いた。ちょうど夕食が終わった頃だったようだ。  一生の母親が看護師だと知らない隼人は、大輝と湊がやけに親しそうに看護師さんと話しているのを見て不思議そうにしていたが、理由を知ると一生のお母さんにうやうやしく挨拶をした。 「あらあら、今日電話で話した子ね。礼儀正しい子だと思ってたけど、実物はこんなカッコいい男の子だったのね」 「それじゃまるで俺たちがイケてないみたいじゃないですか」  大輝が冗談っぽく拗ねて見せる。 「大輝君も湊君も素敵よ。ところで旭葵君は?」 「それが……」  湊が説明すると、一生のお母さんは微妙な表情を浮かべた。 「そう……、残念ね。さあさあ、とにかく中に入って、一生は起きてるから」  一生のベッドは4人部屋の窓際だった。他の患者たちは夕食後、皆どこかに行っているようで3つのベッドは空だった。こういうところから軽症の患者ばかりを集めた部屋だと分かり、一生の事故が大事でないことを物語っていた。  一生は大輝たちを笑顔で迎えた。 「よぉ、全然元気そうじゃねぇかよ。マジで心配して損したわ」  大輝はベッドの端に跳ねるように腰かけた。 「ホント、最初妹から事故のことを聞いた時は足が震えたよ」 「驚かせて悪かったな湊」  一生は湊の横に立つ隼人に視線を向ける。 「なんでおまえまで来るんだよ」  そう言いながらも一生の顔は笑っている。 「敵情視察ってとこかな」 「なんだよソレ」 「せっかくなら数ヶ月入院でもしてくれたら、お姫様をかっさらえるのにと思ってたんだけどな」 「相変わらず訳分かんないこと言ってるな」  一生は額と腕に絆創膏を貼っているくらいで、本当に他にどこも悪くないようだった。 「旭葵なんだけど、お婆さんの具合が悪いみたいで一緒に来れなかったんだ」  湊は壁に寄せてあった丸椅子を引きずって来て座った。 「この前旭葵の見舞いに行った時は元気だったのにな。旭葵の風邪が伝染ったんじゃね?」  大輝が足をブラブラさせるので、わずかにベッドが揺れる。  一生はふと顔を曇らせ、何かを考え込むような表情をした。 「一生、どうかした? 気分悪いとか?」  すかさず湊が一生の変化に気づく。 「いや、なんでもない」  一生はすぐに笑顔に戻った。

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