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第74話

 それから事故の詳細やどんな検査をしただとか、どれくらい入院するのかとか、そんな話をして時間を過ごす。 「あれ〜、おっかしいなあ」  鞄の中に手を突っ込んだ湊がつぶやいた。 「妹から預かったやつ持って来たはずなんだけどなぁ。ごめん、学校に忘れちゃったみたいだ」  大輝が「なになに?」と興味を示す。 「文化祭で旭葵の演奏を撮影したやつ、フルバージョンで」  今度は隼人も反応した。 「え、マジ? それ俺も欲しい。ポンチョ姿の旭葵、めっちゃ可愛かった。な、一生、俺ももらっていいだろ」 「……」  一生は再び顔を曇らせた。 「あ、ダメ?」 「いや……」  一生は口ごもる。 「変なことには使わないからさ」  大輝が「なんだよその変なことって、旭葵が聞いたらまたぶん殴られるぞ」と、速攻横槍を入れ、湊は苦笑いを浮かべる。 「それなんだけど……」  一生は困った顔をしてポリポリと頭をかいた。 「旭葵って誰?」  湊、大輝、隼人の3人は同時に停止した。瞬きをするのも忘れたように一生を凝視したまま動かない。凍りついた3人を前に一生はしどろもどろになる。 「ええっ……と、俺の知り……合い……とか?」 「おいおいおい、一生、俺たちをからかってんのか」 「大輝」  湊は静かに、でもピシャリと大輝を制した。 「一生、旭葵が誰か分からないのか?」  湊の真剣な眼差しは、一生のちょっとした表情の変化をも見逃すまいとしているようだった。  一生は応える代わりに、首を傾げるようにうなずいた。 「マジかよ……」  隼人が天井を仰ぎ、ため息のような息を吐く。 「俺、そいつと仲が良かったのか?」  一生の問いに3人はなんとも言えない泣きそうな顔をした。 「仲が良いもなにも……」  そこで言葉を失ってしまった大輝の後を湊が引き継ぐ。 「旭葵は僕や大輝と同じように一生の幼なじみで、そしてそれだけじゃない、旭葵は一生の親友だよ」 「親友……」  一生は湊の言葉を繰り返した。長い沈黙が横たわる。 「あ、旭葵の写真見たら思い出せるんじゃね?」  大輝はスマホで旭葵の写真を探し始めた。湊も自分のスマホを取り出した。 「俺のはこの前旭葵に全部消されちゃったんだよな。文化祭の旭葵も何もかも」  隼人は一旦は取り出したスマホをポケットに戻した。 「こうやってみると意外と写真ってないもんだな。特に旭葵は写真に撮られるのを嫌うからな。湊、そっちあるか?」  大輝はスマホから顔を上げた。 「これ新しいスマホでさ、写真のデータ移行に失敗したんだよ。旭葵の写真は何枚かあったんだけど、新しいのになってからは……」  湊は諦めたようにスマホを持った手を膝に落とした。 「ない……」

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