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第78話
たったの1週間でよもぎは一回り太ったように見えた。留守の間、お婆さんの知り合いに預かっていてもらっていたのだが、そこでたらふく食べさせてもらっていたのだろう。
旭葵の両親とは成田空港で別れた。本当にいきなりであっという間の1週間だった。自由奔放な両親に振り回されて生きてきた16年間だったが、今回もかなりのものだった。
旅行中、湊と隼人から一生に関するメッセージをもらった。一生は2日間だけ検査入院をして、3日目から普通に登校したらしい。
怪我という怪我はなく、元気だから何も心配することはないと2人は念を押し、また一生は事故でスマホを失くしたみたいなので、メッセージや電話をしても繋がらないと教えてくれた。
一生から連絡が来ても来なくても気になるところだったから、それを聞いて旭葵はほんの少しだが気持ちが軽くなった。
九州で温泉巡りをしている間、片時も一生のことを考えない時はなかった。
1週間で肌はツルツルになったが、心はざらついたままだった。1週間という時間は何の役にも立たなかった。
バス停を降りて海のあるこの町に戻ってきた時、まるで過去に戻ってきたような気分になった。あれから1週間が過ぎているはずなのに、町は1週間前の顔で旭葵を出迎えた。
一生とバス停で会わないように、1本早いバスに乗って登校した。
教室に行く前に温泉まんじゅうを持って職員室に行く。母親に担任に持って行けとしつこく言われたのだった。
担任は遠慮せずに温泉まんじゅうを受け取ると、「桐島、たいしたことなくて良かったな」と、旭葵の温泉旅行ではなく、いきなり一生の話題を振ってきた。
旭葵と一生が小学校から一緒で仲が良いのを担任は知っていて、最近は旭葵が暴れそうになると『桐島を呼べ』と言うようになったぐらいだ。
「事故のことを知らせた時は、教室がお通夜みたいになったからなぁ、女子なんか泣き出す子もいちゃって、あ、どうもどうも」
話に加わって来たのは旭葵の担任から温泉まんじゅうを受け取った一生のクラスの担任だった。
そこへ1人の女生徒が職員室に駆け込んで来た。
「先生大変です! また1年の子とクラスの女子が揉めてます」
「またかっ。桐島は?」
「まだ来てません」
一生の担任は包み紙を剥いて今にも口に入れようとしていた温泉まんじゅうを机に置くと、渋々といった感じで立ち上がった。
「またうちのクラスの子がすみません。私も行きます」
少し離れた席の若い女性教師も立ち上がると、一生の担任と一緒に職員室を出て行った。その様子から見るからに1年生の担任なのだろう。
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