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第79話

 出ていった2人とは対照的に呑気に温泉まんじゅうを食べている旭葵の担任に話しかける。 「あの、1年の子と一生のクラスの女子が揉めてるって、何かあったんですか?」 「桐島から何も聞いてないのか?」 「一生は事故の時にスマホを失くしたらしくて、俺、旅行に行ってたし全然話してないんです」  そうじゃなくても一生と連絡を取ってはいなかっただろうけど。 「おおっ、おまえ桐島の親友なのに何も知らないんだな」  大袈裟にのけぞる担任にイラッとする。 「如月が温泉に浸かっている間に、おまえの親友は年貢を納めたぞ。退院してから甲斐甲斐しく世話をされてほだされたんだろうなぁ。相手の子は過去に2度も桐島にフラれてたって言うじゃないか、それなのにそんな健気なことされたら、そりゃ男は落ちるわなぁ。逆にこれでまたフったりなんかしたら男がすたるってもんだろ。その辺、桐島は潔かったぞ。クラスの女子達もそれを分かってやりゃいいんだけどな。なんか『私達は認めなーい』とか言ってるらしい」 「あの、分かりやすくはっきり言ってもらえますか」  鼓動が速くなる割には、身体から熱が奪われていくような感覚に襲われる。 「如月がいない間に、桐島は1年の女子と公開恋人宣言をしたんだよ」 「1年の女子って、げっ、激カワ……」 「ああ、生徒の間ではそんなふうに呼ばれてる子らしいな。最近人気のアイドルによく似た可愛らしい子だよな。もっとも俺は桐島がその子を2度もフッたのは、桐島には誰か他に好きな相手がいたんじゃないかと思うんだけどなぁ。けどそっちは叶わぬ恋というか、訳ありだったんだろうな、あの桐島がどうにもできない相手だったんだから。如月、おまえ何か知ってるか?」  担任は2つ目の温泉まんじゅうに手を伸ばそうとして旭葵に視線を向けた。 「し、知りません」  旭葵は逃げるように職員室を出た。足でしっかりと廊下を踏みしめていないとよろけそうだ。  一生が激カワちゃんと公開恋人宣言をした。  教師が知っているくらいだから本当のことなのだろう。  想定外すぎて頭がついていかない。まさか旭葵が叩きつけた絶交宣言がこんな形で返されようとは。  自分への当てつけか? それともヤケを起こした? 一生の自分への気持ちはそんなものだったのか? こっちがダメならあっちに。そんな軽いものだったのか?

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