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第81話
「俺も一生は旭葵を見たら思い出すような気がすんだよなぁ。だってさ、あの一生が旭葵を忘れるはずないよ」
めずらしく大輝がしんみりとしている。
「とりあえず、昼休みまでは旭葵を1人で一生に接触させないようにしないと」
湊が人差し指を立てる。
3人の計画は、昼休みに一生に旭葵をこっそり覗かせるというものだった。隼人と大輝がうまく旭葵を誘導し、湊が物陰から一生に旭葵がどれかを教える係だ。
「まさか旭葵、すでに一生に会ったりしてないよな。だってあいつらいつも一緒に登校してるだろ」
大輝は不安げだ。
「もし旭葵にバレてたら、すぐに僕か大輝に何か言ってくるはずだよ。それがないってことは大丈夫。それに一生って激カワちゃんと恋人宣言してから、朝は彼女と一緒に登校してるはずだよ」
「それなー。俺なんか納得いかないんだよなぁ」
隼人はもっと何か言いたげだったが、そのまま口をへの字にして黙った。
「まぁ、一生が過去にフッた相手ではあるけど、退院してから優しくされて、気持ちが変わったんじゃね?」
大輝は湊に同意を求めるような視線を送った。本当は湊も大輝も一生が激カワちゃんと恋人宣言したと聞いた時、心の底から驚いたのだった。
「俺たちもびっくりしたけどさ、だって一生はずっと……、なぁ、湊」
大輝は濁した言葉の先を湊に振る。
「一生はずっと、なんだよ?」
隼人は大輝にはっきり言えと迫る。
「みんながみんな隼人みたいにはなれないってことさ」
「それどう言う意味さ」
「まあまあまあ」
湊が隼人と大輝の間に割って入った。
その時、ガラリと教室のドアが開いた。
「おはっよー」
そこには笑顔の旭葵が立っていた。
1週間で変わったのは一生だけではなかった。大輝に湊、それに隼人の様子もなんだかおかしい。
3人が妙に一生を意識しているのが分かった。激カワちゃんと一生の公開恋人宣言のことで何か思うことがあるのかと思ったが、それだけではなさそうだった。
3人は一生のことを意識しながらも、一生の話題を避けているようにも見えた。
始業のチャイムが鳴ると旭葵はホッとした。正直3人の前で笑顔を保つのがしんどくて仕方なかった。
昼休みに入ると旭葵は素早く教室の外に出た。
1人になりたかった。これ以上笑顔を作るのは無理だった。
昼休みに誰もいなさそうなところってどこだろう。ぼんやり考えながら廊下を歩いていると、美術室の前を通りかかった。
中を覗くと誰もいない。室内に充満する絵の具の匂いがさっきまでここで誰かが絵を描いていたのだと教えてくれる。
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