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第91話
教室に戻ると湊たちが旭葵を待っていた。
「なんだ、先に食べてくれてたらよかったのに」
「俺はこれで3個目だから」
そう言って大輝は焼きそばパンの封を切った。隼人も同じく、とメロンパンを頬張る。
今朝、3人は一生のことを黙っていて悪かったと旭葵に謝ってきた。3人は何も悪くないのに。けど一生だって、悪くない。今回のことは誰も悪くないのだ。
「一生と何を話してきたの?」
3人を代表するように湊が訊いてきた。
「別に大したことは話してないよ。昨日はいきなり殴って悪かったなって謝って、あんまり過去の俺たちの関係にこだわる必要はないからって」
「それってどういう意味だよ?」
大輝が怪訝な顔をする。
「そのままだよ、一生が俺のこと忘れてんのに、俺たちは幼なじみだ親友だ、仲が良かったんだって押し付けるのってなんか変だと思って。今はクラスも違うしさ、全く元通りにならなくてもいんじゃないかと思うんだ。一生には彼女もいることだし、男同士でつるむのもそろそろ卒業してもいいんじゃね」
「それ、本気で言ってんの?」
湊が顔をぐにゃりと歪める。
「本気も本気」
大輝と湊は納得がいかないといった感じでお互いの顔を見合わせたがそれ以上何も言わなかった。隼人は隼人で難しい顔をして、黙って黙々とメロンパンを貪っていた。
旭葵が最後の音をジャランと鳴らし終わると、ふいに背後で拍手が湧いた。
部室にはもう誰もいないと思っていたのに、振り向くと縦笛のケーナ奏者の女子が立っていた。
「最近の如月君ってなんかすごい。チャランゴ演奏者にでもなるつもり?」
「それもいいかも」
旭葵はニヤッと笑いながら、指先でチャランゴの弦を弄ぶ。
「そろそろ帰らないと門が閉まっちゃうよ」
窓の外はとっくに夜が訪れていた。旭葵はチャランゴをケースに入れ、帰り支度を始める。自然とケーナ奏者の女子と一緒に部室を出ることになる。
「最近は桐島君と一緒に帰ってないんだね」
「一生は彼女できたからさ」
一生の記憶のことを知っているのは、学校では湊と大輝、隼人の3人だけだ。
「あっ、噂をすればだ」
校門をくぐる一生と激カワちゃんの姿が見えた。一生に寄りかかるようにして歩く激カワちゃんの肩を一生が抱いている。
「なんか最初はあの1年の子を非難する声も多かったけど、最近はみんな認めるようになってきたっていうか、なんだかんだ言ってあの2人はお似合いだよね」
2人が公開恋人宣言をしてしばらくの間、激カワちゃんは女子達からかなりの反感をかい、虐めとも言える相当な嫌がらせを受けたらしい。
それに溜まり兼ねたのは激カワちゃんではなく一生だった。
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