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第101話
舞台の上で演じているような長い宴が永遠に感じた。1時間半の永遠の間、旭葵は椅子に座っているのがやっとだった。
具材の旨味がたっぷり染み込んだスープで作った〆のトマトリゾットも、甘さ控えめの苺のショートケーキも、舞台の上では作り物のように味がしなかった。
「一生は鈴さんを送ってらっしゃい。片付けは私と旭葵君でするから、ね、旭葵君、手伝ってくれるでしょ」
一生のお母さんは食べ終わった食器を引こうとしていた一生と激カワちゃんにそう促した。
一生のお母さんの指示に従ってテーブルの皿を流しに運び、それを横から一生のお母さんがじゃんじゃん洗っていく。洗われた食器を旭葵が布巾で拭いて食器棚にしまう。
「ねぇ、旭葵君」
一生のお母さんはキュキュッと音を立ててグラスを洗いながら旭葵に尋ねた。
「一生が事故にあう前、一生と旭葵君って喧嘩でもしてたの?」
取り皿を棚にしまおうと伸ばした手を旭葵は引っ込めた。一生のお母さんの口調はとても自然だったが、きっとこの話がしたくて旭葵に片付けを手伝わせたのだと旭葵はすぐに理解した。
一呼吸おいて、精一杯、何気ない声を作る。
「なんでですか?」
「一生を運び込んだ緊急隊員の人が教えてくれたんだけど、救急車の中で一生、うわ言でずっと“アサ、ごめん。アサ、ごめん”って言ってたらしいの」
旭葵は不自然にならないよう一生のお母さんに背を向けた。顔を見られたくなかった。自分は今、泣きそうな顔をしているかも知れない。そうでなくとも冷静な顔でないことだけは確かだ。
「別に喧嘩なんか……」
これ以上しゃべると声が震えてしまいそうで、言葉を呑み込んだ。背中にお母さんの視線を感じる。
「そう……ならいいんだけど。もしかして一生が旭葵君のことだけを忘れてしまったのって、
何かその辺に理由があるのかしらと思って」
一生はあの夜のことを記憶から消してしまうほど後悔していたとでもいうのか。そんなになかったことにしたかったのか。
「記憶の件なら俺はそんなに気にしてないですから」
どうにか明るい声を出すことに成功する。そのまま取り皿を棚にしまい、片付けを再開させる。そうすることでこの話はもう終わりだと無言で一生のお母さんにアピールした。それがちゃんと伝わったようで一生のお母さんは話題を変えた。
「旭葵君は一生の水泳の大会は応援に行ってるの?」
「いえ、一生から来なくていいって言われてるし」
「そう……」
一生のお母さんは浅く頷くと、黙々とほと走る水の下で手を動かす。
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